第一話 尾島五時
まあここまではよくある話で、ってどこまで話したんだっけ? わかんねえから、もういっぺん話すわ。
お前は優しいな。こんな俺の話聞いてくれて。高校からの十年来の親友だからそりゃそうか。
寒くないか? この病院冷えるもんな。暖房代ケチってるんだって。ウケる。入院暮らしもなかなか悪くない。思っていたより病院のメシはうまいし、テレビも見れるし……テレビカード買うのだるいけど。
そうそう話を最初からするんだったな。
俺はまあ、お前が知っている通り大学在学中に本当の夢に目覚めて就活をせずフリーターになった。けどそこそこ充実した毎日を送っていたよ。毎日キーボードタイピングしてそれなりに真剣に文学をやっていたワケよ。でもまあ働きもせず新人賞にうんともすんとも言わない作品を生み出し続ける俺に両親もそろそろ限界でな、俺は二十四歳のときバイトを探し始めた。
どうせなら本に関するバイトがいいかなって、本屋に応募したけどどこもダメで。バイトが決まらないのに両親からのお小遣いは途絶え、お金に困っていたとき中学のときのサッカー部の先輩から突然連絡があったんだ「お前にいい儲け話があるぞ」。
全然連絡なかったのに突然連絡もらえて嬉しかったし、ちょうどお金に困っていたから儲け話と来たら聞かなきゃ損だろ? 俺は待ち合わせのカフェへ行った。
先輩は大量の「マリナサンタクロスの夢」というハードカバー本とお札とお守り、そしてカッコイイ魔法陣の描かれたハンカチを持ってやってきた。先輩は「この本は必ず売れるからこの本を買い取ってほしい、そうすればあなたにも神の御加護があるでしょう。これもなにかの縁だからお札とお守りとハンカチもあげるね」と言ってお金を受け取ると去っていた。
俺のアパートに大量の同じ本。家に帰るとそんな光景が当たり前になった。両親にはなぜか呆れられたが俺はこの本を売れて大金が手に入ることが楽しみで仕方がない。
本、お札、お守り……たくさんもらったが一番のお気に入りはこのハンカチだ。なにせカッコイイ。そして幸せにな……うーん何だったけ本のタイトル、まあいいや、なんか本を買い取れば神の御加護があるっていうし宝くじでも当たんないかなと思って過ごしていたワケよ。
でも二十六歳のある日、気づいたんだ。
詐欺じゃん。
騙されとるやん俺。
なんだなんだ、このハンカチだって。ググったらなんかのアニメの魔法陣のパクリっつーかそのアニメのグッズだったらしいじゃねえか。お札もお守りもニセモノか?
あーあ、貧乏になっただけで残ったのは大量の同じ本。どうすりゃいい?
まあここまではよくある話なんだわ。
その先がやばい。
やけくそになった俺は有り金全部で宝くじ買った。当たれ……当たれ……と念じて。そしたらさ、当たったんだよ! 一等十億!
「で、なんで君は今入院することになったの?」ってカオしてんな。まあ聞いてくれ。
当たりの宝くじを毎日眺める日々を送っていたある日。捨てたはずの例のハンカチを久しぶりに見つけたんだ。小憎たらしいハンカチ。すぐにゴミ箱に突っ込んだよ。
でもそのゴミ箱が突然光りだしたんだ! どうやらハンカチの魔法陣が光っているみたいだ。その魔法陣が俺の手に持っていた当たりの宝くじを吸い込んだから慌てて俺もその魔法陣に飛び込んだんだ。
第二話 秋月ヨウコ
とんだ偶然だったにしても、このご時世に魔法陣なんて信じられるか?いや、信じて欲しい。本当に魔法陣だったんだよ、黄色のハンカチなんて幸せの象徴なんてもんじゃない。何が悲しくて詐欺のハンカチで魔法陣に飛び込む二十六の男なんているかよ。
まぁ、結局吸い込まれた先がひどいのなんのったらありゃしねえ。まず、吸い込まれたら、
「あれ…わたし浮いてる…?」
なんてもんが、セオリーじゃないか。垂直落下真っ逆さま。まさか。登ってもいないのに落ちていくなんてもう十億円があたったのが山だったんだろうとしか思えないね。そこで、出会ったのが、別世界の俺さ。「十億円の使い方を間違えた俺」と「十億円を使えなかった俺」の末路たち。
「お前ら可愛い彼女でもできたか?」なんて。
なんて答えたと思う?