※残部僅少につき売り切れ御免
〈蒸気都市〉帝都は世界随一の規模を誇る大都会だ。
街は科学の恩恵に支えられ、人の暮らしには蒸気機関が欠かせない。
だがこうした大都会には往々にしてひずみが生じやすい。
それはときに貧富の差の拡大という形で路上生活者を生む。
それはときに非合法組織という形で人々に牙をむく。
*
愚連隊〈戎〉の下っ端の少年、早駆けはスリに失敗し、その憐みに十円金貨を投げかけられる。
一枚の金貨。
それは少年の夢を叶えるに十分な額だった。
もっともかつてともに夢を見た相手はもういない。
一枚の金貨が見せる夢は少年を熱く暗い思い出へといざなう。
全てを燃やし尽くされたあの夜を。
少年を愚連隊に追いやったはじまりを。
少年を殺さず生かした男への恐怖を。
親しい者は奪われた少年に復讐の気概はない。彼は敗残者だ。
それはけして消え去ってはくれない、刻みこまれた記憶。
敗残者の臭いは過去を語らずともにじみ出てしまうものらしい。
特に路地裏でのさばっているような連中は、他人の弱みに鼻が効く。
愚連隊の面々は彼を侮蔑する。スリに失敗し、足を引っ張る彼を見下して優越感を糧にする。
少年はますます他人に八つ当たりがしたくなる。
早駆けは度胸を示すために喧嘩を売る。
その軽率が帝都最悪の組織〈結社〉の尖兵を招いてしまうとは考えもしないままに……
*
〈戎〉を傘下に収める非合法組織、誠道会は、落ちぶれた自組織を盛り返すため、信越商会に商談を支援をあおぐ。
商会の軽井沢は落ちぶれた相手の行く末を夢想して楽しむ女だ。 そんな彼女のふとした残酷な思い付きから、誠道会では内部抗争が勃発してしまう。
それが〈結社〉を誘発するとも知らず。
*
早駆けの前に現れたのは坂上、坂下と名乗る探偵であった。
いま見たものは忘れろ。
そう言う探偵であったが、早駆けは記憶がけして消えないことを身をもって知っていた。
刻みこまれた記憶。
忘れてはならない経験。
目を背けたくなる事実。
「忘れられるわけねえだろ」
敗残を脱するにはどうすればいいか、決断には未来がかかっている。
*
人の数だけの思惑を乗せた歯車が不協和音をたてて回り、全てを容赦なく巻きこみ、自壊していく。
否応なく引きずられていく早駆け。
彼が行きつく先は果たして。
帝都で起こった『《正義の人》騒動』を描く長編
手向けの花は路地裏に
◇作品概要スチームパンクを旗印に活動しております蒸奇都市倶楽部の長編です。
愚連隊に属する早駆け少年を主軸に、様々な者の身勝手な思惑が絡み合い、
もつれあい、やがて誰もが大きな事件に巻き込まれる。そんな作品です。
試し読みは当倶楽部のブログ記事をご覧ください。 →
http://steamengine1901.blog.fc2.com/blog-entry-55.html本文は18行×40文字、12級。
「手向けの花は路地裏に」は
文庫判384ページのボリュームでお送りします。
頒価は1000円ですが、中身も厚さも高いとは思わせません。
ぜひ一度お手に取ってみてください。
表紙・挿絵・カバーデザイン:へっぽこタルト
◇シリーズ「幻影の双貌篇」について本作から一部の作品に「幻影の双貌(ソウボウ)編」とシリーズ名がつきます。
サークルが同一の作品世界を扱う上での区分上の処置でして、作品そのものは続き物ではありません。「幻影の双貌編」は作中の敵役〈黄金の幻影の結社〉の最終目標とされる、
〈混沌なる黄金〉および〈結社〉の暗躍に焦点をあてた連作群を指します。
シリーズ概要、解説等の詳細は蒸奇都市倶楽部のブログ記事をご覧ください。
→
「幻影の双貌篇」(蒸奇都市倶楽部 電子広報)
◆関連作品をWeb掲載本作の前日譚にあたります
『路地裏の花は人知れず』『また咲く日を恋う』を「小説家になろう」様に掲載しています。
先に読んで雰囲気を把握してみるのもいいかもしれません。
(下記リンクから「小説家になろう」の作品扉ページへ飛びます)
→
路地裏の花は人知れず:
http://ncode.syosetu.com/n3131dq/→
また咲く日を恋う:
http://ncode.syosetu.com/n4195dq/