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ひと夏の馬鹿さわぎ

  • き-11 (小説|BL)→配置図(eventmesh)
  • ひとなつのばかさわぎ
  • ぽしい
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 316ページ
  • 800円
  • 2018/01/21(日)発行
  • 「俺、馬鹿なんで……」


    真面目な引っ越し作業員、加地桐一。
     いつもけだるげなバイト、岡田騎央。
     気づけばいつもいっしょにいる。いっしょに仕事をする。いつもとなりにいる。
    なのに、桐一はひょんなことから騎央を意識しはじめてしまう。
    どう考えたって、男が男相手に抱く感情ではない。
    なんども自分を否定するが、酔いつぶれたある日、いちどだけキスをしてしまった。
     そのキスをきっかけに、ふたりの関係がどんどんおかしくなって……。

    刺さるような日差しのなかで、かすかに草の香りがする。
     蝉の声がはぜるのを聴きながら、流れる汗をぬぐったら、夏は果てていく。

    「これ以上先に進んだら、俺とお前は元の仕事仲間に戻れなくなってしまう」

    (裏表紙より)

    性的描写があります。

    イラスト:ジンドウ様


    <本文サンプル>

    「あ! アホパカだ! アホパカマークのトラックだ!」

    閑静な住宅街を徐行するトラックの側面を、下校中の小学生が指さして笑う。

    それを轢かないよう気をつけながら、加地桐一は直射日光で熱を持ちっぱなしのハンドルをぐっと握りしめた。

    「きょう、小学生は午前授業なんすかね。こんな時間からうようよいる」

    助手席の岡田騎央が、けだるげにカーナビを操作しながらつぶやいた。小学生の笑い声はいまだ聞こえてくる。

    アホパカマークの引越センター、正式名を『アルパカ引越センター』。

    いったい誰がデザインしたのか、ロゴマークのアルパカの顔がどうにもこうにも阿呆面なことで有名だ。どこかひとを小馬鹿にしているようにも見えるその表情は、見れば見るほど苛立ってきて、仕事で疲れた日なんかに目があってしまうとため息が出る。ご覧の通り小学生にはうけているが、すれ違うたびに笑われるのもそろそろ煩わしい。

    そんなロゴマークを持った会社に、よくもまあ十年も務めたものだと、桐一は思った。

    大学受験に失敗したことがきっかけで就職活動をし、真面目だけが取り柄でここまでやってきたが、真面目さがすぎたのかきょうまで彼女のひとりもいない。二十八歳。三十路を目前にして、これはちょっとまずいとひととおり焦ってみるも、よくよく考えれば今の自分は仕事をすることで精一杯だ。今の生活に女性を介入させる隙なんてあるはずがない。

    というわけで、きょうもこうしてトラックのハンドルを握っているわけである。

    まだ本格的な夏と呼べる季節になったかどうかも曖昧なのに、住宅街の坂道の上からは、燃え上がる入道雲が見える。青空からは痛いほどの日差しが降りそそぎ、引越し屋には辛い季節になったなと思いながら、桐一は額ににじむ汗を拳で拭った。

    その横で、靴を脱いだ足をダッシュボードの上に投げだし、スマートフォンをいじる騎央。

    だらしないからやめろと桐一がたしなめると、「へーい」とやる気のなさそうな返事とともに素直に足をおろす。

    きょうはまだ、はじまったばかりだ。


    「キリさん。次コンビニ通りかかったら寄ってほしいっす」

    「あいよ」

    それからほどなくしてコンビニの看板が見えてきた。桐一は駐車場にトラックをすべりこませると、冷房の効いていた車内から、とろけるような暑さのアスファルトの地面へ降り立った。

    灰皿の前で胸ポケットから煙草を一本抜き、汗をだらだらかきながらもくもく煙をたてていると、買い物を済ませた騎央が店内から出てきた。

    「アイス。トラックの中で食うから、鍵開けてほしい」

    「いいけど、暑いぞ」

    「だからアイスなんでしょ」

    騎央は脱色しすぎてぱさぱさになった髪の毛をかき上げた。もう肩まで伸びたそれは、頭頂部から真っ黒な地毛がはっきりと見えていて、もういっそ黒に染め直せと桐一がなんども注意していた。

    だが、「バイトなんだから大目に見てくださいよ」の一言で、切ることも染め直すこともしない。バイトといえど、見た目は信頼に関わる。なんとかその頭髪だけでも整えさせようとするが、頑としてきかない。

    桐一はひとまわり近く年下のこの男に手を焼いていた。

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