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雨色ドロップス

  • イ-22 (小説|短編・掌編・ショートショート)→配置図(eventmesh)
  • あめいろどろっぷす
  • ゆら
  • 書籍|B6
  • 52ページ
  • 200円
  • 2018/06/17(日)発行
  • 様々な「雨」の表情を切り取った短編集。pixivにて公開中の『雨と逃避行』を含めた全5作を収録しております。


    以下、試し読み(『雨と逃避行』は、上記URLから全文読めます)。


    「じゃあ、また連絡するね」

    「気を付けて帰るんだよ~」

     女の子の後姿が駅の雑踏に消えていくまで見送ってから、さて、と一つ伸びをする。俺も帰るとしよう。

     ガラス戸に映った、何の感情も浮かんでいない自分の顔に一瞬驚いた。さっきまでにこやかに喋っていた俺と同一人物とは思えない。

       でもまぁ、こっちが素なわけだし。多分。

     これ以上ひどくならないことを祈りつつ、帰り道を駆け出した。雨雲が近づくとき特有の、水の匂いがする風が吹き抜けていく。(『雨を越えていけ』より)


     昔、こんな風に二人で手をつないでどこかへ逃げたことがあった。お稽古ごとだったか、原因は何だったか忘れたけれど、ちょっと塞ぎこんでいた彼女の手を取って、電車に乗って初めて二人で遠出したのだ。

     そのときの手の感触と高鳴った心臓の音が、今と重なる。一緒に走りながら、二人ならどこにでも行けると思ったのだ。

    「……あの日の海、綺麗だったね」

     口から零れた独り言に、彼女は懐かしそうに答える。

    「そうね。帰りが遅くなって、家に着いてから目一杯叱られちゃったけど、私にとってはそれもいい思い出よ」

     思い出話に花が咲く間も、彼女は手を離さずにいてくれた。その温もりから、どうしても、こう付け足さずにはいられなかった。

    「私は、これ以上何もいらないって思ったよ」

     哀しみの色を滲ませて、彼女は頷いた。

    「私もだよ」

     あの頃の私たちは、無敵だった。二人がいるここが世界の全てだと信じて疑わなかった。(『雨が止んだらさようなら』より)


     あたしだって女の子だから、いつか素敵な恋ができることを夢見ていた。「恋」。その単語を聞いた途端、ほっぺたが緩むような幸せを感じて、あるいはほんの少しの切なさを思い出して、あぁ、青春だなぁ、なんて人は思うだろう。自分にそういう経験が無くとも、その言葉は無条件で何らかの憧れを抱かせる力を秘めていた。もちろんあたしも、その言葉を聞くたびに胸をときめかせていた。

     そんな「恋」が、こんなにもぎすぎすした嫌な感情であるはずがない。

     もやもやした気持ちを振り払うようにラケットを振る。ぱこんと音を立てた黄色いテニスボールが、見ていて気持ちがいいほど真っ直ぐ相手コートに入った。綺麗に決まったスマッシュの軌跡を見届けながら、何かに誓うようにあたしは思ったのだ。

     あいつのことが好きなんて、絶対あり得ない。(『雨とつつじと初恋と』より)


     この町の子供は、なんというか、変な奴ばかりだ。何が原因なのか知らんが、皆生まれつき人間離れした力を持っているのだ。

     力といってもアメコミに出てくるヒーローみたいなものではなく、「限られた距離間でのみ瞬間移動ができる」とか、「テレパシーが使える(ただし伝えられる言葉は三十字以内)」とか、とにかくしょぼい。そして大抵の人間は十五になるかならないかの時期を境にこの力を失う。

     期間限定のしょぼい力を何のためにて与えたのか。カミサマってやつは何考えてんのかさっぱり分からねぇ。

     困ったように笑うクラスメイトの山下さんは、雨の日だけ透明人間になるという特異体質の持ち主だ。(『雨の日の幽霊』より)

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