この小冊子は2021年末にオープンしたタメンタイギャラリー鶴見町ラボの立ち上げと最初の半年間の展示記録をまとめたものである。初号となる本誌では、新たなアートスペースの立ち上げにいたるまでの生の情報と、そこで生み出されていった価値の双方を記録にとどめておくことを第一の目的として制作した。実験的、挑戦的な展示企画を開催するスペースとして、作品発表自体と同等に重要なことと位置づけられる実験以前のプランニングと以後の振り返りを担うものである。加えて、アートマネジメントの立場から展示を運営していくにあたって考え、悩んでいることをありのままにしたためた編者のエッセイも収載した。
少し前までであればSNSにでもアップして溜飲を下げていたことなのだが、どうにも広がりすぎてしまうことに疲れてしまった。思いの丈は限られた読者にだけ届くほうがいい。
そもそもタメンタイギャラリーという名前は、一面的でない美術の価値をそのままに見せていくギャラリーとして、多面的な統合体を目指そうと名付けたものである。目に見える作品の背後には、人間であるアーティストがいて、作品はその織りなす価値の「表面」だと思っている。展示として発表されるに至るまでに捨象された「点」や「線」もあわせて紹介することで、見えてくる価値がきっとある。そんな思いを込めて、この定期的に刊行していく予定の冊子を「テンセン」と名付けた。断片的な積み重ねが、いずれ価値の総体を大きくしていく──そんな美術の価値創造の過程に立ち会うことは特権的なものではなく、もう少し開かれたものであっても良いはずだ。読者にはぜひとも価値の萌芽の目撃者となっていただきたい。
2022年11月
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