表紙・人物紹介等原画 星村朱美(ホシムラアケミ)
……その辺の下種が嫌で、追放された殺人鬼ならいいのか。
かつてケルリ王国を恐怖のどん底に陥れた無差別殺人鬼“魔剣士”サラ=フィンク。しかし、たまたま助けてしまったケルリの第二王女ミルシリアの存在が、彼を次第に変え始める。血に飢えた魔剣ブリザードと己自身を救う手立てを求め、彼女と共に“魔道王国”ルーファラを目指す彼の旅の途上に待っていたのは……
魔剣を操る青年魔道士と亡国の元王女との旅の途上で起こる事共を描く長編ファンタジー小説。割にオーソドックスな、「所謂『剣と魔法』の何となく西洋風なファンタジー」の皮を被っておりますが、血沸き肉躍る冒険譚というよりも、寧ろ道中記に当たりましょうか。
……なお、820ページ、背幅5cm弱、1,090gの鈍器ゆえ、ごろ寝仰向け読書には……いや、寝転がっても読めることは読めるのですが、読み「通す」のは少々(?)厳しいです(汗)。
表紙込み820ページをいきなり手に取るのは怖い……という方々の為に表紙込み44ページを提供する無料試読冊子
『魔剣士サラ=フィンク 44/820』も配布中(※リンク跳び先はテキレボ9カタログ)。「トータル・プロローグ」及び「砂漠の暗黒神殿」第二節までを収録しています。
=== 以下抜粋===
ナファール神殿の建っていた丘の上に延びる石段の上に、幾人かの人影がある。剣のものらしい
煌めきが、時折目に映った。四人、五人……どうやら、見える限りでは五名、見張りに立っているようである。下から見えない員数も勘定に入れると、
凡そ十名前後と思われた。サラ=フィンクはマントのように肩から羽織っていた砂色の
外套を脱ぎ捨て、全身黒ひと色の〝魔剣士〟の姿に戻った。
「……ブリザード、今すぐ、血を吸わせてやるからな」
呟き、ゆっくりと腰の魔剣を抜く。シャキッ、と小さいが耳に付く音がする。相変わらず、刃色は悪い。もしかすると切れないかもしれない、という不安が
過る。だがサラ=フィンクは唇を噛んでその懸念を振り払い、剣を垂直に立てた。
「原始なるものの名残にして万物の源たる
魔力よ、我と我が身を、今我が目に見据えし場へと移せ――時空を超えて――」
刀身に添えられた左手の指が、言葉につれて緩やかに印を描く。
「――カララス・テリパータ・ミシュレエル!」
瞬時の後、その黒い姿は、神殿の壇上に
屯していた見張り達のど真ん中に出現していた。
気合の声ひとつなく一閃した魔剣に、最も近くのひとりがギャッと声上げて倒れる。二閃、次いでもうひとり。
(……いつもなら、最低でもあとふたりは片付けている)
ようやく事態を悟った見張り達が口々に
喚きながら向かってくるのを目で捉えつつ、サラ=フィンクは自らを嘲る笑いを浮かべた。魔剣に常の切れ味がないことと、彼自身が本調子でないこと、それに加え〝瞬間移動〟という高レベルの魔道の技を使ったこと。「いつも」のように行かなかったのは当然であった。だが、何も身を隠す物のない長い石段を駆け上る危険を冒すよりはましだと考えたのだ。
三人目、四人目。どうやら傭兵らしい。皆、まちまちの服装をしている。五人目――なかなかの
手練れだ。容易に傷を負わせることが出来ない。そうこうしている間に、別の相手が後ろに回り込む。
「――ナファールよ!」
サラ=フィンクは左掌を前に突き出しざま、後ろも見ずに右手の魔剣を背後に叩き付けた。後ろで断末魔の叫びが上がり、前では相手が不可視の力に吹き飛ばされて引っくり返った。息つく間もなく襲いくる横合からの突きを身を沈めて躱し、下からその胸を貫く。げほっと吐き出された血が降り掛かる。サラ=フィンクは眉ひとつ動かさなかった。剣で貫いた相手の体を、反対から突っ込んできた別の相手に引き摺り叩き付ける。その勢いを利用して抜いた魔剣を、先刻転倒させた相手の喉に突き立て、残るひとりと向かい合う――
ひとり?
サラ=フィンクは緊張した。この場に来た時ざっと見回した限りでは、その時に斬り伏せたふたりも含め十人居た筈だ。それから倒したのは五人。残っているのは三人の筈ではないか?
刹那、頭上から声が降った。
「
雷よ!」
サラ=フィンクの体は、声の終わるより先に動いた。
轟音と共に一条の雷光が突き刺さる――まさに寸前まで彼が立っていた場所に。
(魔道士が居たか!)
素早く仰ぐと、果たして、剣の届かないほどの上空に、青ローブ姿の魔道士がひとり、浮かんでいた。〝飛行〟を使い、上から〝稲妻の一撃〟を見舞ってきたのだ。
そうと見て取った瞬間、サラ=フィンクは左手を相手に突き付け、〝魔法消散〟の
呪文を叫んでいた。
「魔力を打ち消すは魔力なり――キリナス・ディサート・マナ!!」
魔道士の顔色が変わった。
あっと叫ぶ間もなくバランスを失い、中空から落下して石畳に叩き付けられる。
嫌な音。
あらぬ方へ首の折れ曲がった体は、二度とは動かなかった。
サラ=フィンクは、残った傭兵に向き直った。
底知れぬ闇を湛えた漆黒の瞳にじっと見据えられた傭兵は、不意にガタガタ震え始めた。
「た……助けてくれ……」
サラ=フィンクは無言で魔剣を目の前に
翳した。血の纏い付く
白刃は、ようやくいつもの輝きを取り戻しているように見えた。
しかし、満足はしていなかった。
───「砂漠の暗黒神殿 Ⅲ 邪神の神殿」より