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ほどけない体温

  • C-19 (小説|BL)
  • ほどけないたいおん
  • 高梨 來
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 314ページ
  • 1,000円
  • 2016/3/21(月)発行
  • 創作BL(R18)  │ 文庫 │ 314頁  │  900円 │ 16/03/21


    どうしてこんな風に、縫いつけられたみたいに無様なこの視線が逸らせないんだろう。


    他者を遠ざけるように生きる大学四回生の桐島周はある日、知人を介した呑み会の席でいやに気さくな男、瀧谷忍と出会う。
    忍から差し出される無遠慮な温もりにいつしか頑なな心を溶かされていくことに戸惑う周がある日、誰にも明かすつもりのなかった本音を打ち明けたことから、二人の関係は急速な変化を遂げる――

    自分を許せずに心を閉ざしていた男の子が「ほんとうに大切なもの」を手にするまでのお話。直接的な性描写を含むため、R18設定とさせていただいております

    ※「ジェミニとほうき星」から5年後のエピソードとなっておりますが、単独でもお読みいただけます。



    【本文サンプル】
    優しいのは忍の方だ、と周は思う。ちゃんと人を好きになれるのが、何よりものその証だ。
     結局誰だってみんな、自分しかかわいくないに決まってる。自分のことなんてひとつも好きになんてなれないくせに、自己保身に走って上辺を取り繕うのに必死な自分自身が何よりものいい例だ。
     壁を作っているのは紛れもない、自分自身なのに―こんな風に意味もなく八つ当たりをしてしまう自身の狡さが誰よりも嫌いだ。
     わざとらしい不機嫌を張り付けたような表情を浮かべながら、周は答える。
    「面倒なんだよ。他人に寂しさ埋めてもらおうなんて思えるほど器用じゃないだけっつうか」
     おまえとは違って、という喉元までせり上がった言葉をそのままぐっと飲み込む。なんでこんな話してるんだろう。知り合って大して間もないのに。
    「カッコいいなぁ周は」
     グラスを傾けながら注がれるにやにや笑いを前に、居心地の悪さと、それでもどこか穏やかなぬくもりを受け止めずにはいられない。こんな気持ち、ほしくないのに。
    「茶化すんじゃねえよ」
    「茶化されてるって思いたいんだ?」
     くに、と奥歯で砂肝を噛みしめながら答えれば、いやに余裕ぶった答えが即座に返される。
     こういう物言いの癖は好きじゃない。試されているようで。それなら会わなければいい、そのはずなのに。
    「ね、周」
     くるくるとよく動く、澄んだ焦げ茶色の瞳でじっとこちらを見つめて話すその癖、ふわふわと揺れるやわらかそうな髪、きまぐれにシルバーリングがはまっていたりいなかったりする、少し節くれた長い指。それになにより、今では殆ど呼ばれないその名前を呼ぶ、少し鼻にかかったあまえたように聞こえる呼び方。
     こいつとこうして居ると、普段使わない感情がフル稼働するのを感じる。だからすごく疲れるのに、こうして居るのが嫌なわけじゃない。
    「なんで」
     掠れた声で、ぽつりと囁くように呟く。独り言めいた響きのその言葉は決して目の前の男に聞かせる為のものではない。雑踏に紛れて消えてしまうことを期待して、唇をわずかに震わせて響かせただけだ。

     なんでおまえは俺なんかと居たがるんだよ。おまえが決めてくれよ。

     そんなこと、言えるわけあるはずもない。



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