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ファラールの舞曲

  • う-06 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • ふぁらーるのぶきょく
  • 藍間真珠
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 432ページ
  • 1,000円
  • http://indigo.opal.ne.jp/
  • 2019/9/8(日)発行
  • この中に魔物はいるのか? 幼女をめぐる謎と駆け引きの異能力ファンタジー!
    ファミィール家の娘ゼジッテリカは、父親に続き魔物に命を狙われる。叔父テキアは彼女を守るため、大勢の護衛を雇うことを決意した。 偽りの中放られた少女は、偽りを選び取った存在と出会う。
    カクヨム版 https://kakuyomu.jp/works/1177354054884557259


    第一話 冒頭
     ゼジッテリカが部屋を出るのは久方ぶりのことだった。しかしそれが父の葬儀のためとなれば、はしゃぐような気持ちにもなれない。
     大切な人形を抱きしめたゼジッテリカは、自身もまるで人形のようにひたすら屋敷の大広間で立ち尽くしていた。隣に立つ叔父テキアの声も遠い。父の死を悼む者たちの言葉は、なお遠かった。
     葬儀とはいっても、形ばかりのものだ。本来であればファミィール家の威光を示すため各地から人を呼び寄せるところだが、護衛的な観点からそれは取りやめとなったという。
     今この屋敷の中にいるのはファミィールの関係者や、屋敷の使用人たちだけだ。天井の高い、厳かな広間がまるで何かの抜け殻のように思えてくる。
    「かわいそうに」
     ふいと、誰かの漏らした言葉がゼジッテリカの鼓膜を叩いた。ぎゅっと唇を引き結び、ゼジッテリカは目を伏せる。
     父サキロイカを亡くしたかわいそうな娘。没落の一途を辿るだろう家に取り残された哀れな少女。
     大人たちが何を口にしているのか、ゼジッテリカにはわかっていた。彼らは日々あえて難しい言葉を使って会話していたが、それをこの幼い少女が理解しているとは思ってもいないだろう。
     部屋を出ることをほぼ禁じられていたゼジッテリカは、もっぱら本を慰みとしていた。子ども向けの本を読み切った彼女は、手当たり次第に大人向けのものまで手を出すようになった。そのうち、自然と周囲の人間が何を話しているのか把握できるようになった。
    「テキア様、あなたはどうか」
     まるで誰かの祈るような声がすすり泣きに混じって聞こえる。ゼジッテリカは、人形を抱く手にさらに力を込めた。
     ファミィール家の人間が次々と亡くなったのを、偶然の一言で片付ける大人たちは馬鹿だ。それでゼジッテリカが納得すると思っているのだろうか。
     父が突然倒れたと耳にしたのは、五日ほど前のことだった。本当に帰らぬ人となったのがいつのことなのか、ゼジッテリカには知らされていない。
    「皆様、ありがとうございます」
     忽然と、テキアの声が大きくなった。わずかに顔を上げたゼジッテリカは、横目でテキアを見る。黒い喪服に身を包んだまだ若い叔父は、神妙な顔で人々に向かって口を開いていた。
     今、全ての期待を一身に背負っている人だ。それは家の内情については知らぬゼジッテリカにも理解できる。当主の娘である彼女がまだ八歳なため、まだまだこの家を取り仕切ることはできない。その役目が果たせるのは、テキアの他にはいなかった。
    「明日から、この屋敷に護衛が入ります」
     大広間が静まりかえった。皆が知っていた事実のはずだが、こうした場でテキアが発言するのは初めてなのだろうか。それとも、ただならぬ空気を感じ取っているのか。 「私たちには兄の死を悲しむ時間などありません。皆様ご承知の通り、我々はどうやら魔物に狙われているようです。じっとしているだけでは、死を待つばかりとなるでしょう」
     ざわりと、動揺が広がった。青白い皆の顔が強ばるのが、ゼジッテリカにも見えた。きっと、それをここで口にするのかと問いたいのだろう。ゼジッテリカの前で口にしてもよいのかと。
    「魔物に対抗できるのは、技使いだけです」
     だがここでテキアに意見できる者などいない。そもそも使用人たちの噂話から、ゼジッテリカは既にそれらを知っていた。ファミィール家を狙っているのは謎の魔物ではないかと、ずいぶん前から聞いていた。
    「ですから技使いを雇いました」
     ゼジッテリカは、人形の金の髪をそっと撫でた。明日から、審査を受けた護衛がこの屋敷に来る。それは葬儀の直前にテキアから聞かされた。ゼジッテリカの部屋にも入るというから驚きだった。あそこは父と母、テキア、使用人だけしか入れていなかったのに。

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