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エアンダルのひめごと

  • う-06 (小説|ファンタジー・幻想文学)→配置図(eventmesh)
  • えあんだるのひめごと
  • 藍間真珠
  • 書籍|A5
  • 82ページ
  • 1,000円
  • 2021/01/17(日)発行
  • 両片思い小説の再録集。 「密の紡ぎ」「緋蓮」「エアンダルのひめごと」を加筆修正しました。 ハードカバー本です。
    サンプル https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14290437

     
    「エアンダルのひめごと」冒頭
    「シフレソア様、本日より初夜の儀に向けての準備に取りかかります」  様々な騒動にようやく区切りがついて、私も息が吐けるようになったとある日のこと。朝食の後に部屋を訪れた初老の侍女が口にしたのは、そんな一言だった。――初夜。ついにその時が来たのかと、私は固唾を呑む。婚約者から正式に妻という身分となったのだから、いずれそうした話が出てくるのは覚悟していた。それでも面と向かって口にされるのは、やはり違った。
     タガンツールの第三王子の妻。それが今の私の立場だ。もはや哀れなエアンダルの娘ではない。悲しげな顔をしているわけにも、たじろいでいるわけにもいかない。
     とはいえ、この国で、しかも王室に入るという形となる者が、どのような初夜を迎えるのか。そうした知識が、私にはまるでなかった。余計に緊張するのはそのためだろう。
    「そうですか」
    「そのため、本日よりお食事が変わります。また、身を清めるための儀式も行っていただきます。身につけていただくものは全てディアーイン様が選ばれておりますので、そこはご心配なく」
    「わかりました」
    「この度はディアーイン様の取り計らいで、お二人での初夜の儀となりましたので。そちらもご心配なく」
     淡々とした口調で真顔のまま、侍女はそう告げた。嫁いでくる者の大半は他国の人間だろうから、その辺りはもう織り込み済みということだろうか。けれども「お二人での」という響きが、私の中で引っ掛かった。それではまるで、二人だけではない初夜の儀があるかのようだ。
    「それでは失礼します」
     しかしそんな問いを放つ暇はなかった。音もなく踵を返した侍女の後ろ姿を、私は椅子に腰掛けたまま見送る。用件は本当にそれだけだったのだろう。私は膝の上で握る手に力を込めた。豊かな布の上に、小さな拳が沈み込む。
     ようやくここまで来た。何重にも重ねた嘘を乗り越えて、ようやくここまで。そう思うと、なんとも言えぬ心地がする。
     ここしばらくはディアーインともほとんど言葉を交わさない生活を送ってきた。彼が忙しすぎるのがその原因だけれども、初夜となるとそうはいかない。彼をどこまで謀ればいいのかもわからずに、私はため息を吐いた。
     気が重い。彼が私のことを本当はどう思っているのか。そんなことはどうでもよいと言い聞かせ続けてきたけれど、身体を重ねるのだと考えるとやっぱり気に掛かってしまった。
     彼も偽るのが得意な人間だ。第三王子としての立場はまだまだ複雑であるし、隙を見せるようなことは、あれからほとんどなかった。いつも誰かしらが私たちの傍にはいるので、気をつけているというのもあるだろう。そういう意味では、初夜の儀は久しぶりに二人きりになる時間でもあるのか。
     私はふいと天井を見上げた。それを恐れているのか喜んでいるのか、自分でもよくわからない。私が彼と二人で言葉を交わすのは、大抵この部屋の中だ。ただそう思い出すだけだった。




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