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Restart(妖怪シリーズ1)

  • Eホール(1F) | D-65 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • りすたーと
  • 時幸 空
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 100円
  • http://nanos.jp/soratokiyuki/
  • 2014/3/16(日)発行
  • 妖怪退治屋の末裔でありながら、妖怪退治に抵抗のある人間・乙葉旭と、かつては人を喰って生きながらえていた五百歳の白狐の妖怪・焔がコンビを組んで、人の世界へはみ出した妖怪たちを助けながら、それぞれの進むべき道の選択を迫られていく【11シリーズ】
    旭高校生編となる新シリーズ第一弾です。

    【冒頭紹介】

     春、三月。
     庭先では白梅が終わり、ようやく紅梅が花をつけはじめていた。
     啓蟄を過ぎたとはいえ、冬眠していた虫が穴から出てくるほど暖かくはなく、庭木の肌が少しばかり明るさを取り戻したことがわかる程度の、早春だった。
     乙葉家の前に小さなトラックが止まった。
     段ボール数個の荷物を積むだけの作業は、いとも簡単に終わった。
    「本当に行っちゃうのね。せめて中学の卒業式くらい出れば良かったのに」
     旭の母・陽桜は赤いタータンチェックの大きなストールに身を包み、荷を運ぶ焔と旭を見つめていた。
    「別れを惜しむような友達なんていないし」
    「南野くんがいるじゃない」
    「なんちゃんも卒業式には出ないよ。もう合宿所に入ったから」
     幼なじみの南野は、旭が普通ではないことを知ってなお、普通に接してくれた数少ない友人の一人だった。小さな頃から野球選手を目指していた彼は、推薦で野球の強い地方の高校へ進学を決めていた。南野が甲子園に出場したら必ず観に行くと約束をして別れたのは、先週のことだ。
     旭は、中学三年の最初の半年間を欠席したにも関わらず、無事に私立高校に合格した。
     中学を卒業したら乙葉の家を出る――それは士を辞めるときから決めていたことだった。当然、家族は猛反対したが、焔が彼らを説得してくれた。
    「旭、トラック出発していいか?」
     運転手と話していた焔が旭を呼んだ。もちろん今は白狐ではなく人型に変化している。
     元があやかしだからか、人型の彼は美しい。整った顔立ち、少し長めの茶髪、すらりとした手足を武器に、どんな服も軽く着こなし、すれ違う女性たちの視線を引きつける。
    「ほむらちゃん」
     幼稚園の制服を着て、母親に手を引かれた幼女が通りかかった。近所の子だ。
    「さやか、これから幼稚園か? 気をつけてな」
    「うん、バイバイ」
     四歳の少女とその母親に手を振る。
    「ロリコン」
    「バーカ」
     めずらしく軽口を叩いた旭に、焔はいつもの癖でうっかり手を伸ばしその髪にくしゃりと触れようとした。
     しかし、その指が届くことはなかった。旭がすっと身を引いたのだ。
    「あ、悪い」
     旭はなんの表情も見せないまま小さく首を振った。結べるほどに伸びた前髪がぱらぱらと揺れる。
     一年前のあの春以降、旭が笑ったことは一度もない。泣きもせず、怒りもしない。すべてをあの春の闇の底に置き忘れてしまったかのように、その顔から、そして心からも感情というものが消えてしまった。
     そして誰かに触れられることを厭うようになった。
     明らかにそれは心的外傷後ストレス障害の症状であり、家族の者は診断と治療を望んだが、その理由を嫌というほど知っている焔が彼らを留めたのだった。
    「焔、引越のトラック」
    「ああ、そうだった」
    「電車の僕たちより先に着くと思うけど、あっちで栞子さんが待っててくれるから」
    「了解」
     少しして、トラックが先に旅立った。
     グレーのパーカーの上に紺色のピーコートを羽織り、玄関に置いてあったカバンを斜めがけにすると、すべての準備が整った。
    「旭」
     陽桜の口から、それ以上の言葉はなかった。
     旭は一度だけまっすぐに母の顔を見て、行ってきますと小さく呟いた。

    (続きは本で! よろしくお願いします)

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