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銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE13

  • 南3-4ホール | う-13 (小説|SF)
  • じゅうとうちゅう がんずあんどゆにばーす じゅうさん
  • かわせひろし、神楽坂らせん、にぽっくめいきんぐ、波野發作、山田佳江
  • 書籍|A5
  • 128ページ
  • 1,100円
  • https://bccks.jp/bcck/183389/…
  • 2026/4/19(日)発行
  • セルフパブリッシング・エンターテインメントSFマガジン『銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE』第12号発売です!

    控え 控えい 控えおろう この紋所が目に入らぬか
    こちらにおわす御方をどなたと心得る
    畏れ多くも先の副将軍GUNS&UNIVERSE公にあらせられるぞ
    一同 御老公の御前である 頭が高い 控えおろう

    とばかりに天下をまかり通りたい、志は高い作品群をご堪能あれ!
    収録作品 ちょっと上まで…(神楽坂らせん)
    タイムスリップせどらーはたなか(にぼっくめいきんぐ)
    クローン04(かわせひろし)
    異世界転戦ダルダイン(波野發作)
    アンフォールドザワールド・アンビバレンス(山田佳江)
    濃密な読書体験を提供する5作品!

    〈試し読み・ちょっと上まで…〉
    【ちょっと上まで……】第15話
     # Enter the Lagrange Point
    【ショーゴ視点】
     時間は数日遡る。
     リリクの親父さんは、夢に生きる男なんだろう。
     なんていうとかっこよく聞こえるかもしれないけれど、実際のところ、このおっさんはとんだエゴイストだ。  ショーゴはそう痛感していた。
     リリクの乗ったシャトルが〈バイトアルト〉への帰還軌道を逸れ、地上へ緊急再突入を余儀なくされた時……。  実はちょうど足りるぐらいの減速用推進剤が積まれていて、さらに、ちょうど再突入ポイントの帰還ウィンドウが目の前に……、なんて「偶然」があったのだ。
    「こんなこともあろうかと……ってな」と、「どうして?」と聞いた僕に、予期していたような親父さんの言葉。  アクシデントへの備えとしてはあまりにも出来すぎているんじゃないのか?
     かろうじて機能が残された〈バイトアルト〉の設備履歴を確認したショーゴは、親父さんが事前に着々と準備を進めていたことを知る。
     リリクはいつだって先頭に立って走りたいはずなのに。
     ほんとに自分の事しか考えていないオヤジだ。
     彼女がいない分、僕はかじりついてでも同行してやるんだ。
     そう、どんなに危険だって。

     射出の瞬間、見えない巨人の手が全身を押さえつける。
     電磁カタパルトが間に合わせの宇宙機 ──〈ウェンレニウシ〉と名付けられた── を一気に加速させる。初速でいきなり秒速数百メートルへ。成層圏上層のほぼ真空と言えるごくごく希薄な大気を切り裂いて──射出。
     カタパルトの衝撃のあと、突然すべてが軽くなった。
     無重量。
     胃が遅れてついてくる。ショーゴは思わず手すりを掴む。指先に伝わる金属の冷たさだけが、自分がまだここにいることを教えてくれる。
    「影響あたえる大気なんてここらにありゃしねえよ」
     親父さんの言葉を裏付けるように、〈ウェンレニウシ〉は大気の摩擦など考慮していない。無骨で単純、そして原始的な──少々長めの丸太を三本、ひもでまとめたような形。キウンカムイのブースターを強引に束ねただけのものだ。
     推力軸線がぶれてさえいなければ問題ない。と親父さんは言う。
     キャビン内部は剥き出しの配管と押し込んだだけのシート。頭上には手書きのラベルが貼られたバルブやスイッチが無造作に並ぶ。足元には酸素ボンベと工具箱。壁面には軌道計算用のチャートと、地球近方でしか使えないコンパスが、テープで固定されている。
     雑な作りだった。
     だが、それでも何とかなる、してきた実績があるんだろう。親父さんは自信たっぷりだ。
     ショーゴは小さな覗き窓に額を近づける。遠ざかるバイトアルトの輪郭を目で追った。
    〈ウェンレニウシ〉は噴射口を先頭にして進んでいる。進行方向に対して後方となっている与圧部からは、母船がよく見えた。巨大な白鳥とも、翼をもつ白鯨とも形容された優美で生物的なシルエット。
    (リリクはエイみたいだって言ってたっけ。そっちのほうがしっくりくるな)
     ゆっくりと、しかし確実に、母船は視界から小さな白い点へと変わっていった。

     いま、キャビン内は静かだ。
     エンジン音もない。あるのはわずかな生命維持装置の駆動音と、時折パイプを流れる液体の音だけ。真空の中を慣性のまま突き進む〈ウェンレニウシ〉は、その速度に反して、まるで深海を漂う潜水艇のようだった。
     手元の軌道チャートに目を落とす。数字と矢印の群れが、現在位置と向かう先をクールに示している。
     だがショーゴの意識は、冷たい{空間上のベクトル}(方程式)より心理の事象に向いていた。
     つまりはそう、リリクのこと……。
     あの笑い声や怒りの矛先、手の熱さ。いつでも思い出せる。鮮明に。
    (……そうだ。リリクのために、僕はここにいるんだ)
     その心の目標に至るためには現実の軌道を正確に計算し、実際の場所、目的地へたどり着かなきゃいけない。  ベクトルチャートとコンパスを壁面ダッシュボックスに納めて、ショーゴはこれからの行程を脳裏に思い浮かべる。
     バイトアルトの後方斜め上方側に射出され、地球の中心をめぐる楕円軌道。ほんの少しだけゆがんだ軌道はいったんふくらみ、速度から得られる接線分力がぎりぎり地球重力と拮抗する点で、地球の縁を沿うように進路をそらす。そこでブースターに点火。落下する加速度を加算して脱出速度を得る。
    「急げは遅く。高いは遠い……か」
     ショーゴはつぶやいた。
     加速するタイミングと向き、噴射時間を再確認していると、親父さんが当然わかっているというふうに言った。
    「うわてがえしの重力パチンコ軌道ってやつだ」
     何でも聞きたがるなぜなに小僧(僕のことだ)よ、覚えておけ、と。
     重力パチンコ? スリングショット効果のことだろうか。
     熟達した水先案内人は、見えない海底の地形を知り、潮の流れを読んで舵を切り、自在に思う方向へ舳先を向けるという。この親父は、亜軌道という地球大気圏と宇宙の狭間の空域を知り尽くしているのだろう。
     膨らんだ軌道を取り戻すようにバイトアルトの後方へ滑り落ち、地球の質量から得られる重力加速度 ── 地球が太陽をめぐる公転速度と、その巨大な質量のエネルギー ── を、ほんの少しいただく。軌道を一周する時には脱出軌道に乗る軌道遷移。
     この〈ウェンレニウシ〉が ── 重力パチンコとして ── 打ち出される代わりに、地球が失うエネルギーは誤差のようなものだろう。たぶん、公転速度が年間1ミリメートルぐらい遅くなる程度だ。
    (大丈夫……だよ、ね?)

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