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初空の回想

  • 南3-4ホール | あ-23 (小説|エンタメ・大衆小説)
  • はつぞらのかいそう
  • 榎木洋子
  • 書籍|A4
  • 44ページ
  • 500円
  • 2024/12/29(日)発行
  • フウキ国の若き不遜な魔法使きタギと彼の同僚魔法使いレンと、国を守護する守龍の娘シエラの冒険や日々の物語の外伝。タギの名台詞。気に入らない相手に「ブタに変えるぞ!」コバルト文庫1996年刊行「龍と魔法使い公式ガイドブック」の小説部分のみ再録 (電書になっておりません)
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    本文試し読み
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     その日、タギは自分の迂闊さを呪っていた。
       春の盛りだというのに風邪を引いてしまったのだ。
       それでも、とあるはずせない事情で、勤務後レンとともに緑星亭へ赴いていた。
       開店前の店の中でレンやベラルダととある打ち合わせをしながらハーブ茶を飲み、なんだか悪寒がする、こりゃ早々に引き上げだと考えていた。そこに店の前の騒ぎが聞こえた。一方は知らぬ声だったが、もう一方は……。
      「あら、テオじゃないの?」ベラルダが言った。
       そのようですねとレンが言い、タギはがたんと席を立った。わざわざ止めに行くとは、珍しいこともあるものだとレンは見送った。だが、 タギは扉を開けざまこう叫んだ。
      「うるっせえっ! どっかよそ行って――!」
       やりやがれ、と続くはずだったのだろうが、タギは最後までは言えなかった。いきなり大量の水を浴びせかけられたのである。一瞬の沈黙の後。
      「う、うわああああっ! たた、大将、すすす、すいませんっ!」
       店の中のレンとベラルダの耳にまで、慌てたテオの悲鳴が響きわたった。
    「は、はっくしょんっ! て、てめえエっ、テオっ!  何考えて……」
       皆まで言わずにまたタギはくしゃみをした。水はテオが魔法で呼んだものだった。店の扉の前に立つ喧嘩相手にかけるつもりだったのが、ちょうどそのときタギが扉を開けて、とばっちりを被ったというのが真相だった。濡れた服を着替えろだの、毛布を持って来るだのと、レンやベラルダや店の主が右往左往する中、テオは風邪を引いたらいけないと薬を持ってきた。
      「大将、これ飲んで下さいよ。あさがお通りの薬屋のやつだ。良く効く薬だから」
      そういって差し出したのは薬湯で、湯気が出ていてとても温かそうだった。 悪寒を感じていたタギは素直に受け取った。カップからハッカの良い香りがした。だから抵抗なく口に運び……。
       毛布を持ってきたベラルダが悲鳴をあげた。
      「ああっ、違うわよ、テオ! それ、店主のボケ防止の……!」
       この言葉は、薬湯を飲み干したタギに最後の一撃を加えた。

       * *    * *
     「くそ、起きねえな。けとばしたほうがいいんじゃないか、こりゃあ?」
      「そんなことしたら、グリフォンさまに怒られちゃいますよう」
       タギの耳元で、子供たちが喋っていた。素手に触れる土の感触と、鼻腔をくすぐる緑の香りから、どうも戸外の森の中に寝ているらしいとわかった。わかったが……どうしてそんな場所に? と、意識を覚醒させた。眉を寄せて瞳を開いて――ぱっくり口を開けた。
      「ようこそ! 鍵の庭園へ」
      子供のひとりが言った。
     「違うだろ! ようこそ、風の塔と迷いの森へ! だって」
       もう一方の子供がすかさず口をはさんだ。
      「わ、そんなにいっぺんに言ったらダメだってえ」
      「めんどくせえだろ。どうせ言わなきゃならないんだから」
     「たとえそうでも、グリフォンさまに怒られるよー。キマリなんだから」

    (本文に続く)
     

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