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龍は初花を呼ぶ

  • 南3-4ホール | あ-23 (小説|エンタメ・大衆小説)
  • りゅうははつはなをよぶ
  • 榎木洋子
  • 書籍|A5
  • 120ページ
  • 1,000円
  • https://note.com/enoki_youko/…
  • 2026/5/4(月)発行
  • 今まで執筆して同人誌で発表した守龍世界の短編を全部詰めました。9編です。
    やはり龍と魔法使いが一番多いです。
    (龍と魔法使い) 「フォーチュンクッキー大作戦」 「やすらかな夜」 「タギの寄り道 モミの木のある道で」 「火龍と魔法使い」 「龍と魔法使いたちの宴」 「龍と魔法使い寄せ書き風」
    (リダーロイスシリーズ) 「秋の終わりのちいさいオバケ」 「夢の彼方へ」
    (ウミベリ国物語) 「ミミと魔法の夏」
    「ガイドブック風 各地各国の紹介」

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    本文 試し読み
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        タギの寄り道   モミの木のある道で

      北から吹く風が、タギの黒い髪をくしゃっとかき混ぜていった。
     見上げると空はどこまでも青く、雲ひとつなかった。
      「おーい、吹き飛ばす雲がないからって、おれの髪で遊ぶな」
       南へ吹く風に向かって、のんびりと声をかける。
       道の向こうで木立がざわざわと揺れたのは、北風の侘びなのか、笑った証しなのか。
       快晴だが冬間近で、頬に当たる空気はすっきりと冷たい。
      『楽しそうだね、人間の魔法使い』
       すぐ横の大木から声がかかった。太い枝に座った精霊が話しかけてきたのだ。
     「そりゃあな、家へ帰るンだからな」
      『ほう、家とはどこだ?』
     「おれが帰りたい場所。おれを待ってる奴らがいる場所。どこかは教えねーよ」  
    『用心深いな、人間の魔法使い』
      「伊達にあんたらと付き合ってねェよ。じゃあな、モミの木の旦那。雪や雨から森の奴らを守ってやれよ」
      『もちろんだとも。それが葉を落とさない我らの務めであり喜びだ』
       タギは通りすぎたところで振り返った。杖で肩をトントンと叩きながら大木を見上げたが、やおらモミの木に向かって歩き出し、根っこのひとつをコンと杖で叩いた。
      「おい、ちっこい水の精霊と大地のなかの奴ら。ここでケンカすんのやめてやれ。やめねーなら火で焼き尽くすぞー、おまえらだけ」
      すると、木の根の中からもぞもぞとちびっこい精霊たちが顔を出した。
      『だってこいつが私のドレスを汚そうとするんだもの』
     『ドレス見せびらかしに来て水を撒きすぎなんだよ、このバカは』
       水の精霊と木の根に栄養を送る大地の精霊が、互いを指さして言いあう。
       タギはそんなかれらを――――まったくどうでもよさげに、足先で乱暴になぎ払った。
      『なにすんだよー!』
      「うるせえ。ケンカしたからおまえら焼く」  
    『うわー! 待って待って待って!』
     『きゃー、いやあああー、私、なくなっちゃう。イヤー!』
       精霊たちはわたわたと逃げ惑う。タギはそれをひょいひょいと猫の子のようにつまみ上げた。
      「おめーら反省したか? バカなケンカしてる間に、見ろ、そこの根っこ、栄養が行かなくてダメになりかけてンだろ」
       タギが示した箇所の根は、確かに嫌な色に変わっていた。
      『ううう。ごめんなさい』
      「おれに謝ってどーする」
       タギは精霊たちをポイッと放り出すと、問題の木の根っこに軽く杖を当て、修復の手助けをする魔法を使った。唱える魔法はいつもの四字熟語の強烈な魔法ではなく、優しい静かな声音で語りかける呪文だった。
       根の中の弱った部分を元気づけ、よどんだ流れを正して元に戻していく。そのうえで他の弱った箇所にも栄養が行き渡るように力を与える。そんな魔法だ。
      『大盤振る舞いだな、人間の魔法使い』
       枝の上にいた精霊が、するりと地面に降り立った。
     『おかげで足の痛みが和らいだよ』
       精霊の手の中には、タギが放ったちまい精霊たちがちゃんと保護されていた。
      『ごめんよう』
      『私も……意地張ったわ』
     しゅんとなったふたりに、モミの木の精霊はよしよしと頭を撫でてやる。
     『これからも私の木の世話を頼むよ』 『うん。今やる。魔法使いの魔法、助けてくる』
       小さい精霊たちは腕からぴょんと飛び降りると、タギの魔法で微光を放つ根っこに手を当てて一生懸命さすり始めた。  
    「よお、どうだい?」
      タギは精霊のほうをふり向いて聞いた。
      『ああ、もうずいぶんマシになった。これならここに座って、日がな一日旅人に話しかけて暇をつぶさずとも、辺りを歩き回って〝小さいの〟の面倒も見てやれそうだ』
      「そりゃよかった。おれがわざわざ足を止めた甲斐があった。次、ここ通る時にもいちいち話しかけられたら、うるさくてかなわねぇからなあ」
      『うちに帰るって言ってたのに、またすぐ出かけるのかな』
      『馬鹿ね、追い出されるに決まってるでしょ。あんな乱暴なやつ』
       ちまい精霊たちがひそひそと言いあう。
      「……聞こえてンぞコラ」
       怖い顔を作ったタギが言うと、精霊たちはピシッと背筋を伸ばしてせっせと木の根を世話し始めた。
      「さあて、道草くっちまったが、これで行くか」
      『人間の魔法使い。礼といってはなんだが、これを持っていくといい』
      モミの木の精霊は大木を見あげて手をさしだした。
       上の方でざわざわと梢が鳴ったかと思うと、精霊の手の上にぽとりと落ちてきたものがあった。
       輪になった紐の付いた、平たい木の人形だった。
     『冬至の祭りに木に飾るものだよ。大昔、道に落ちているのを旅人が見つけて、茶目っ気で私の首にかけた。あれから何十年も経ったが、だれも取りに来ないのでね。私が譲り受けていいだろう』
       何十年も風雨にさらされていたはずなのに、人形に汚れは少なかった。描かれた模様も鮮やかなままだ。
       きっとこの精霊が大事に守っていたのだろう。
       それをかれはタギに差し出した。
      『幸運のお守りだ』  
       タギは「いいや」と断ろうと思ったが、愛嬌のある人形の笑顔を見て気が変わった。
      「そんじゃ遠慮なく。……いい匂いがするな。同じモミの木から作られてんのか」
    『実をいえば、私の先代の木からだ。百年前に切り倒された立派な木だったよ』
    「だったら、家でも冬至の祭りの日に窓に飾っておくか」
      『そうするといい。良い年越しをな、人間の魔法使い』  
    「ああ、そっちもな。良い冬ごもりを、か」
       もらった人形を荷物の中にしまい、最後に高いモミの木のてっぺんを見あげると、タギはきびすを返して道に戻り、歩き出した。
      どちらもさよならは言わなかった。ただの通りすがりだからだ。
       それでもモミの木の病は癒え、タギの荷物には幸運のお守りが増えた。
     日の当たる道は白くまぶしく、ときおり微風が吹いてタギの髪を流す。
      歩くリズムに合わせて外套のすそが跳ね、道に落ちる影を元気に踊らせる。
     空は青かった。
      歩く道の先にはなつかしい我が家が待っていた。

            【タギの寄り道 モミの木のある道で】


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