小学校で165センチ。中学校で185センチ。高校で193センチ。
少しだけ世界の見え方を変えてしまうには、十分な大きさだった。
本作『綱がなかった日のこと』は、長野県の農村で育った著者による、記憶の断片をすくい上げたエッセイ集です。
通学路の蜃気楼、雪に閉ざされる道、なぜか続くSPEEDのメンバーにスカウトされる妄想、そして運動会の綱引き。どこにでもあるはずの風景が、ほんの少しだけズレた視点で語られます。
大きすぎる身体ゆえの違和感や、うまく言葉にできない感情。
子どもから大人になる過程で、誰もが一度は感じる「なんとなくの居心地の悪さ」を、ユーモアと乾いた距離感で描いています。
特別な出来事が起こるわけではありません。
けれど、読み終えたあとにふと、自分の過去の些細な記憶がよみがえる。そんな静かな余韻のある一冊です。
初めて本を書く著者が、「知らない誰かにチヤホヤされたい」という衝動から始めた本作。
軽やかな動機とは裏腹に、その中身はどこか切実で、個人的で、それでいて不思議と普遍的です。
笑えるのに、少しだけ胸に残る。
そんな読後感を、ぜひ会場で手に取って確かめてください。
【目次】
・綱がなかった日のこと
・通学路の秘密
・1998年、遠い世界の出来事
・見取算病院
・イケてる店たち
・放送部という部活
・彼女が欲しい
・大学入試
・富田林という魔境
・藤井寺の郵便局の前の交差点
・モラトリアム期間の終わり
・あとがき