「人の心がわからなすぎて、愛と憎悪の違いもわからなくなっちゃってんだ。カワイソ」
「意地張ってんのはそっちだろ。いつもみたいにかわいくねだりに来たら抱いてやるのに」
早く消えろと瞼を伏せて冷たく見下ろす。
悪魔が悪夢なんて聞いたことない。悪魔がPTSD? 笑える。不快度指数たった1でも、その1が悪魔は気に食わないのだ。
ラムズが口を開くのが見えて、アタシのほうが消えた。口から嘘しか吐かない男だ、聞く価値はない。
アタシは普段仲良くしている男悪魔、ロネミの家にまた転移をする。
「シェリン? ……来たのか?」目を擦ってアタシのほうを見上げる。
「寝足りないからベッド貸してくんない」
「はいはい」
彼が布団を持ち上げた。隣で寝ろってこと?
「ベッド貸して? おまえ外」
「いや、俺寝てるんだけど」
「知らないし。アタシ今はひとりで寝たい気分」
「ワガママだなほんとに……」
ロネミは呆れながら体を起こした。怠そうにベッドに座る。アタシはすかさず布団に潜った。
「ヤろーよ。シェリン」
彼はのしかかり、アタシの手首を掴んでベッドに押し付けた。
「気分じゃないんだって。起きたらね」
無理やり顎を取られ、唇を奪われる。唾液がぬるりと染み込んで、長い舌がアタシのモノを絡みとった。アタシは背中に腕を伸ばすと翼を掴み、上半身に覆いかぶさっていたロネミを壁まで弾き飛ばした。
「痛ッッ……」顔を顰め睨みつける。「お前、なんだよ。いいだろ。寝込みを襲いに来たのはシェリンだろうが」
「襲ってない。ベッド借りに来ただけ」
アタシはすたっとベッドから立ち上がると、壁の下で背中を摩っているロネミを見下ろした。ヒールの靴で彼の手の甲をぐりと踏み潰す。悪魔は悲鳴を上げ、アタシは口角を小さく持ち上げた。
「アタシに敵うワケないじゃん。何様?」
唸りながらヒールを外そうとしている。
「最近抱かしてくれねぇし、やっと部屋に来たからいいかと思ったんだ。ラムズとも縁切ったんだろ、溜まってんなら相手してくれてもいいだろうが」
この二ヶ月ふたりでいることがなかったから、城下町に住む悪魔たちはみんな察しているんだろう。特にラムズは魔王の側近として有名だし、そのラムズと仲の良いアタシも一目置かれていた。
「まだおまえの順番は回って来てないの。いい子にできないなら──」
「待てよ。わかったよ、悪かった。寝ていいから」
「いい。居心地悪い」
アタシはさらに転移をして、地上にやってきた。朝日が眩しい。
アレももう潮時かなァ。毎度媚びを売るのも面倒だから、ロネミの前では愉しく自由に振舞っていたのだ。だけどあの様子じゃ不満が溜まっていそうだ。あと一回ヤったら捨てよっと。
◆
※別シーン
「それ、愛じゃないよ。ただの自己愛」
「そうだな。だがこんなもんでしか愛の足がかりにできない。俺は悪魔だから」
──そうだね。みんなそうだ、アタシたちは悪魔だから。
◆
※別シーン
足にへばりつこうとするので、気持ち悪くて頭を蹴った。ぐにと首が曲がって倒れる。……あ、死んじゃった。
なんにも浮かばない。罪悪感も後悔もない。蹴ったら死んだ、ただそれだけ。