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雨はまだ止まない

  • 南1-2ホール | G-32 (小説|短編・掌編・ショートショート)
  • あめはまだやまない
  • みたか
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 64ページ
  • 500円
  • https://www.pixiv.net/novel/s…
  • 2025/5/11(日)発行
  • おれの苦しみを否定しないでくれ。


    お前が考えすぎなだけだ。
    贅沢な悩みだ。
    そう言われるかもしれない。
    でもその声が、おれの口を閉ざす。
    感情を押し込める。
    外に出せなくなる。
    外に出せないから、なかったことにされる。
    されてしまう。
    やめてくれ。
    なかったことにしないでくれ。

    ——子どもから見た親子関係をテーマに、親に分かってもらえない苦しみや葛藤を綴った短編集。


    【収録内容】
    ※試し読みはタイトルをクリック

    『プロローグ』(書き下ろし)※全文公開中!
    分かってほしくて、なんとかしたくて、もがいて。
    そうやって苦しんだら、いつか解決するんだろうか。
    きっとおれには何かが足りていない。
    でも何が足りないのか分からない。
    ただ、この苦しみをなんとかしたい。
    ここではないどこかに行きたい。


    『男の顔』
    だって、笑顔だけがおれを守る術だったんだから。

    曖昧に滲んだ男が、おれを見つめている。
    光のない目が、おれの奥の奥まで裸にする。
    嘘つきめ。
    猫を被っただけの意地汚い人間め。
    そう目が訴えている。
    そんなことを言われたって、おれを受け入れなかったのはお前たちだろうが。
    お前たちがおれの気持ちを無視してきたから、おれは諦めたのに。


    『幸せなひと』(書き下ろし)
    幸せなのだ。
    幸せだと思わなければいけない。
    私は恵まれている。
    なのにどうして、こんなに泣きたくなるんだろう。

    あんたはなんも覚えてない。
    そう言われる私でも、覚えているものはある。
    記憶の断片。
    透明のビニールバッグ。
    買ってもらえたのが嬉しくて、電車の中でずっと抱きしめていた。
    鞄の表面に水色の魚が泳いでいた。
    その魚を何度も指先で撫でたことも、そんな私をお母さんが優しく見つめてくれていたことも、私はちゃんと覚えている。


    『人の声とは違う響きで』
    あなたのことを思って言っている。
    そう言って私をコントロールしようとしてくる人たちは、他人だけじゃない。


    『あの冬の日』
    何が正しくて、どうするのが正解なのか分からなかった。
    兄ちゃんの目が怖かった。
    親父に殴られるのも怖かった。

    「ミチルも来るか? ミチルとだったら、一緒に生きてもいい」
    兄ちゃんはまっすぐおれを見た。
    その目は深い海の底みたいで、大きな不安がおれを襲った。
    おれは首を縦に振れなかった。


    『会えない私たち』
    ——私、お母さんになっちゃいけなかったのかも。
    お母さんの口癖。
    何度聞いたか分からないその言葉。
    お母さんがそうこぼすたびに、私はなんて言ったらいいのか分からなかった。


    『今日も明日も』
    煙が鼻先まで届く。
    ぐ、と息を止めて微笑むと、お母さんは満足そうにまた煙草を吸った。

    お母さんには友達があまりいない。
    数少ない友達には、愚痴を言いづらいのだろう。
    だから仕方ない。
    私が聞いてあげるしかない。
    あんたしか話せる人がいないんだから。
    そう言われると、どうしても断れない。


    『埋葬』
    おれと自転車が砂に埋もれていくところを想像した。
    風がおれたちに砂をかけて、身体が少しずつ埋まっていく。
    そうして何もかも消してしまえたら、どんなにいいだろう。


    『私の世界』(書き下ろし)
    お母さんはまだ、私のことを「お金をかけても無駄じゃない人間」だと思っている。

    私の欲しいものはいつも、お母さんにとっては意味のないものだった。
    ボタンを押したら光るおもちゃも、お祭りで売っている指輪も。
    ゴミになるだけ。
    お金の無駄。
    そう言って買ってくれなかった。
    例えばもし、お祭りの屋台で見かけたあの指輪を、私の指にはめることができていたら。
    赤いハートが指で光っているだけで、それだけで、私の心は満たされたのに。
    そこにあるだけで、幸せを感じられたのに。


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