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結界術師と狼男2 -Appetizing Journey-

  • 南1-2ホール | B-25 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • けっかいじゅつしとおおかみおとこつー あぺたいじんぐじゃーにー
  • 天海六花
  • 書籍|新書判
  • 206ページ
  • 900円
  • https://lyufayran.com
  • 2022/2/20(日)発行
  • 魔術師テテと狼男ラサの旅、再び――
    今度の旅ではどんな美味しいものが食べられるかな?
    …って、迷子の青年を拾っちゃった!?
    美味しい楽しいコミカルファンタジー、再演。

    「なんでもチリソースで解決しようとしないでください!」

    --------------------------------------------

     ガーラの沿岸部を離れ、内陸部へ向かう街道を歩くテテとラサ。
     そよそよと風は心地よく、お天気も大変うららかであり、絶好の徒歩旅日和である。
     てくてくと歩いていると、街道脇に立つ木の根元付近に、ひっそりと自生するキノコを見つけた。食べられなくはないが、あまり美味しくない、風味のよくないキノコなので、今夜の晩ごはんにと毟り取るような真似はしない。
     キノコを見ていて、テテはふと思い付いたことを口にする。
    「ねぇラサ。マイコニドってキノコの魔物、いるじゃない? うまく調理したら美味しいのかしら?」
     テテの実家は料理屋で、父親が腕のいい料理人なのである。そんな父親の姿を見て育ったためか、彼女自身も料理が好きで、自慢の腕をこの旅の道中でも振るっては、皆に旨い美味しいと喜ばれている。飽くなき探究心と、若干の食い意地によって、珍しい食材や地方独特の料理を見つけると、自ら食べたい調理したい研究したいという好奇心を捨てきれなくなるタイプなのだ。そして脇目も振らずに対象の食べ物に突撃し、満足するまで料理包丁と鍋を振り回す。
     そんな寄り道満載な、テテの旅路だった。
     マイコニドは食べられるかと、突然話題を振られたラサは、少々考え唸り、そして面倒くさそうに答える。
    「あいつら、毒あるぞ」
     彼の脳裏に、青い動くキノコの姿が思い起こされる。遭遇したことがあるのだ。
    「それを知ってるってことは、食べたのね?」
    「食った。ハラ壊した」
     今はどうもしないし、大したことではないといった様子で、ラサは大あくびをする。まるで他人事だが、彼にとって〝今〟己の身が無事なら、過去の失敗など本当に些細な出来事なのである。
    「はぁ。相変わらず呆れた食い意地ね。何でも口に入れちゃうんだから」
     テテは両手を広げて肩を竦めた。彼女自身は魔物図録に描かれていた絵でしかマイコニドを見たことがないため、〝食べた〟という彼の言葉に、少々羨ましさがつのる。どうにかして食べられないものかと思案するが、見つけてもまずは毒抜きだろう。
     マイコニド――いや、食べられるとされる、あらゆる食用動植物の毒抜き作業は大変非常にまったくもって面倒なのである。火で炙れば、あるいは水にさらせばいいだけではないからだ。
    「オマエだって、黒ナントカカントカがどうのとか言ってるじゃねえか。食えんのか、そんな黒いキノコ? 色だけでアヤしい」
    「黒トリュフ茸! 超高級キノコよ。そんじょそこらのキノコとは桁違いに高いし美味しいのよ。もちろん毒なんて一切ないわ」
    「そのキノコのシチューがなんだ、どうだってのも言ってたよな?」
    「今は思い出させないで! あーもー! クソ師匠、絶対に見つけて蹴り潰す!」
     彼女が師を捜す理由に、黒トリュフ茸が大いに関係あるのだが、彼女の逆鱗に触れないために、今はそっとしておくのが吉である。
    「えー、なんだ。マイコニドだ。あいつら、食ったらしばらくの間、ヘンなの見えるのと毒でアタマと腹、ブッ壊れるぞ。運悪いと死ぬ。オレは死ななかったけどな」
     ラサが眉間に皺を寄せて腕組みをし、唸る。ヘンなのを見る、つまり幻覚と毒で苦しんだ過去の経験を思い出してしまったらしい。
     野生の狼男――いや、野生の獣がうっかりマイコニドを食べ、食あたりで死ぬというような出来事はそう珍しくないのかもしれない。
     先程は些細な出来事だと軽く流したが、やはりあれは彼にとって重大な事件だったかもしれない。
    「ラサの故郷のあの紫のキノコも毒あったけど、食べたら美味しかったじゃない。スープにしても素焼きにしても」
    「アレは魔物じゃない。焼いたら食える」
     彼の故郷の森には、毒々しい紫のキノコがひっそりと自生していたのだが、彼女や彼の言うように、火を通せば大変に芳醇な香りの美味しいキノコ料理に化けるのである。見るからに毒がある、という見た目にそぐわぬ珍味なのだ。
     あの香りと味を思い出したテテの口の中に、じわりと唾液が滲む。また土瓶蒸しスープなどにして食べたいなぁ、などと思いつつ。
    「火を通したり、適切な毒抜き処理したりして毒素が抜けるなら、大抵のものは美味しく食べられそうよね。それに魔物食まものしょくって、旅先で食料が無い時の最終手段なのよ。マイコニドに限らず、ちょっと食べられないか研究してみようかな」
     獣型の魔物の肉は身が引き締まっていて歯ごたえがありそうだし、植物型の魔物は意外とシャキシャキした食感が面白いかもしれない。それらは普通の食材では得られない旨味と栄養素があるかもしれない。ゴーレムやスライムなどの無機質の魔物たちはさすがに論外として、案外魔物食もいけるのではないかと、テテの頬が緩む。それを見たラサが呆れた口調で彼女を嘲笑した。
    「オマエ、食うことに手段選ばねえからな」
    「なによぅ。大食いなラサに言われたくないわ」
     ちょっとだけ拗ねて見せるテテ。だが食い意地それは自分自身、自覚しているがゆえの小さな反抗心だった。彼女は作ることはもちろんだが、食べることも大好きなのである。
    「オマエには負けておいてやる」
     あらゆる強さに固執するラサがあっさりと負けを認めたので、テテは驚いて彼を見上げる。
    「あら、わたしの勝ちでいいの?」
    「食うことだけな。強いのはオレだ」
    「それでいいわよ。ラサはわたしのボディーガードなんだから、強くないと困るもの」
     純粋な強さで負けを認めたわけではないと分かり、テテは苦笑しながら彼を茶化すように言った。
     すると彼は、むすっとした表情になり、じっとテテを見下ろした。
    「でもオレまだオマエに勝ててない……悔しい」
     ぐっと拳を握り締める。それを見たテテはあっと片手を口元に持っていき、冷や汗を垂らす。
    「あ。この展開は……」
    「テテ、今すぐオレと勝負しろ! 今度こそオレはオマエに勝つ!」
    「やっぱりー! 勝負なんかヤダって何度も言ってるでしょお!」
     彼女と彼の勝負云々は、彼女らの出会いから話が始まる。
     ラサと子分の狼たちは、縄張りを荒らしにきたと勘違いしたテテを脅かし追い返そうとし、逆に魔術で返り討ちにされたのである。
     魔術というものを知らなかったラサはテテに不意を突かれて敗北したと思っているが、これは完全に彼の思い込みであり、マグレだと言い張る彼女の言い分が正しい。
     勝負なんかしないと、逃げるように駆け出すテテと、それを追うラサ。これは彼が彼女に勝負しろしないという、話題が始まった時に必ず見られる、なんとも微笑ましい光景だった。


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