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透明な夕暮れ

  • な-41 (小説|短編・掌編・ショートショート)
  • とうめいなゆうぐれ
  • ゆら
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 122ページ
  • 800円
  • 2024/12/1(日)発行
  • 「――僕はね、透明人間なんだ」
    中学2年生の朝倉あかりは、ある春の夕暮れに公園で儚げな男の子・暁と出会う。
    彼は、自分が透明人間であることをあかりに打ち明けるが……?

    空気を読んで自分を押し殺してしまいがちな主人公が、透明人間との交流をきっかけに自分を見つめ直すお話。

    以下、冒頭部分の試し読みです。↓

     春の夕暮れって、なんとなく切ない。

     昔の人は「春はあけぼの」って言ったらしいけれど、わたしは夕暮れの方が好きだ。辺り一面を染める夕陽の色は暖かくて、優しくて、それなのに、どこかさみしい気がする。いつからか覚えていないけれど、毎年この時期のこの時間帯になると、心臓がぎゅうっと握り潰されるような感覚に襲われる。心が騒めきながら落ち着いていて、満たされているようで何かが足りない。そんな感覚。

     もちろん、そんなことは誰にも言わない。仲良くなってちょうど一年くらいになるナナやちーちゃん、それからマイぴょんにも。だって、言えるわけないじゃん。こんなヤマもオチもないような、つまんない自分の話なんてさ。

    「ねぇ、あかりんは? どこがいい?」

    「ん? ごめん、なんだっけ」

     急に名前を呼ばれたから、わたしは慌ててナナの方を振り返った。夕暮れの切なさを頭から追い出して、ちょっとぼんやりしてたんだ、みたいな感じで首を傾げてみせる。考え事に没頭していたことがバレないように、いつもよりおどけた表情を作ることも忘れない。

     そんな芝居が、みんなに通じただろうか。四人でのおしゃべり以上に大事なものなんてないことはよく分かっていたはずなのに。朝倉(あさくら)あかり、一生の不覚。いや、一生は大げさかも。でも普段のわたしなら、こんな失敗することなんてめったにないのに。

     うまくごまかせていますように、と祈るような気持ちでみんなを見つめる。ちーちゃんはそんなわたしに呆れたようにため息をついて、

    「だからー、春休みに四人で遊びに行こうねって話してたじゃん! あかりんももちろん来るでしょ? それとも、他に用事あるから来る気ない感じ?」

     と不満げに言った。どうやら、わたしの芝居は効かなかったようだ。もしかしたら理由が何だろうと、話を聞いていなかったこと自体が許せないのかもしれない。三学期になってからやや細く短くなり始めたちーちゃんの眉毛が、不機嫌そうに歪む。

     その動きを見ながら、わたしはみんなと一緒に出かけたい気持ちと、よさげな行先を伝えるために頭をフル回転させ始めた。カラオケとかゲームセンターとか、遊べる場所が大体揃っているモールはここから少し遠い。バスの本数も少ないし、わたしたちだけで行くのは難しいだろう。かといって、近くの雑貨屋には少し前に行ったばかりだからなぁ……。

    「えー、行くに決まってんじゃん! わたし、春服見たいな。ほら、駅前に新しくお店できたよね?」

     これ以上の沈黙はマズそうだったから、とりあえず思いついた行先を一つ提案してみる。肝心の店名は思い出せなかったけれど、ちーちゃんの眉間の皺は少しだけ和らいだようだった。わたしがもう一度口を開くよりも先に、わたしとちーちゃんの間に割り込むように身を乗り出したマイぴょんが、

    「そこ、この間ちょっと見てきたけど、服の種類多いし雰囲気もいい感じだったよ!」

     とフォローしてくれた。ナナもゆっくりと頷きながら、

    「賛成~。あとさぁ、ナナ、カフェの春限定のやつまだ飲んでないの。服見に行くなら、帰りに寄らない?」

     みんなを見回してこう尋ねる。ちーちゃんはぱちんと両手を合わせて、

    「春限定のって、桜のやつでしょ? あたし、発売日に飲んだけどおいしかったよ! 超おすすめ」

     と笑った。さっきの不機嫌なんてなかったみたいだった。話題が転がっていく様子を見届けて、わたしはそっと胸を撫で下ろした。

     学校からの帰り道で、わたしたちはいつもみたいに駄弁っていた。月曜日は基本的にどの部活も休みだから、こうして四人で一緒に帰ることにしているのだ。

     たまに吹く風は心地よい程度の冷たさで、少しの砂っぽさと湿った土の匂いがする。雪がほとんどなくなった道路が広い。雪の上だと感じられなかった地面からの確かな反発が、歩くたびに足に返ってくる。一週間はまだ始まったばかりだけれど、もうすぐ春休みのわたしたちはいつもよりちょっとだけ浮かれていて、他に車も人も通らないのをいいことに、道いっぱいに広がって歩いた。

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