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カレイドスコープ

  • な-41 (小説|短編・掌編・ショートショート)
  • かれいどすこーぷ
  • ゆら
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 154ページ
  • 1,000円
  • https://story.nola-novel.com/…
  • 2023/11/11(土)発行
  • 刻一刻と模様を変える万華鏡のように、教室の中で少しずつ変化していく高校生たちの連作短編集。人間関係や進路、自分自身の感情など、様々なことに悩みながら立ち止まったり前へ進んだりする高校生たちが主人公です。青春要素多め。
    以下、収録話のあらすじと一部試し読み。

    ■「星に名前をつけるには」
    →「天然」と決めつけられたくない主人公が、決めつけなかった人との交流を通して自分の気持ちや相手との付き合い方を模索していくお話。
    ・試し読み
     元はと言えば、その日が午前授業であることをわたしがうっかり忘れていたのがいけなかった。

     高校二年生になって間もない、まだ授業がきちんと始まっていなくて、毎日不規則な時間割で過ごしていた頃。四時間目が終わって鞄からお弁当を取り出したわたしを見て、隣の席の吉沢さんが盛大に吹き出した。

    「林田さん、これからホームルームだよ? 今日は午前授業だから」

     笑い出した吉沢さんの代わりに、後ろの席の平賀さんがこっそり教えてくれた。

    「そうだっけ? 忘れてたから、いつもの調子でお弁当持ってきちゃった」

    「林田さんめっちゃ天然! ウケるんだけど‼」

     吉沢さんのつっこみに、クラス中がどっと沸いた。正直何が面白いのかさっぱり分からなかったけれど、ここで何か言っても面倒くさそうだから、わたしは曖昧に笑ってみせた。

     そのせいで、このクラスでのわたしのキャラは「天然」に決まってしまったのだ。


    ■「優等生の胸の内」

    →自他ともに認める完璧な優等生である主人公が、そうあり続けることにほんの少し疲れてしまうお話。

    ・試し読み

     話し合いで煮詰まった教室をこっそり抜け出して、気分転換とばかりに中庭へ向かってみた。一階のピロティから中庭に繋がる道があるから、靴を履き替えなくても行くことができるのだ。

     一〇分程度の休み時間にそこを訪れるような人は他にいないらしく、外は晴れたいい天気なのに、中庭のベンチは空席だった。藤の花はもうすっかり散っていて、まだ柔らかそうな若葉色が日差しを透かしてガラスのように光っている。日差しはそんなに強くはない。吹き抜ける風には冷たい水の匂いがした。

     ……なんか、疲れたなぁ。

     話し合いがまとまらないなんて特に珍しくもないのに、なぜか今回ばかりは大きなため息が出てしまった。なんだろうなー。有り体に言うと面倒くさいのかもしれない。思いつきみたいな適当な意見でもうんうん頷いて褒めるとか、誰にも不満を残さないように配慮しながら話を進めるとか。いつもは息をするようにできていた優等生仕草が、なんか今は全部面倒くさい。


    ■「神様なんかに祈らない」

    →美術部員の主人公が、美術準備室にあるピアノを弾きに来たとある人物と一緒に自分の将来について考えるお話。上記URLより全文読めます。

    ・試し読み

     美術準備室には、もう長い間その蓋を開けられていないピアノが眠っているらしい。

     そんな話を先輩から聞いたことがあったけれど、今まで確かめたことはなかった。なにせ、美術準備室は薄暗くて、埃っぽくて、デッサン用の胸像があちこちから見下している、ちょっと気味の悪い場所だから。それに大抵の道具は美術室に全部用意されているので、わざわざ準備室へ入る用事もなかった。

     入部当初に聞いてすっかり忘れていたその噂話をどうして思い出したかというと、現在進行形で、どこからともなくピアノの音が聞こえているからだ。スケッチブックに向かう手を止めて、もう一度耳を澄ませてみる。


    ■「明日の約束を繰り返して」

    →教室で孤立しないために仮初の友情を結んでいる人への気持ちが、とあることがきっかけで変わってしまうお話。

    ・試し読み

    「それじゃ、私帰るわ。伊月、また明日」

    「うん。天野、また明日ね」

     私が立ち上がってそう言ったら、伊月も顔を上げて小さく手を振った。帰りの挨拶は決まってこの言葉だ。「明日も必ず学校へ来る」という小さな約束。私も伊月も、教室の中で話す相手はお互いしかいないに等しい。だからもしも片方が休むと、もう片方は広い教室で一人ぼっちになってしまうのだ。

     そのことが怖くて仕方なかったから、毎日こうして契約のような言葉を交わして別れる。


    ■「🔍空白 埋める方法 検索」

    →学級日誌の空白を埋めるために色々考えたり、他人の相談に付き合わされたりするお話。

    ・試し読み

     十一月五日。天気は曇り時々雨。雨と言っても、ときどき屋根を打つようにばらばらと大きな音がしていたから、雹に近い雨だろう。遅刻・欠席・早退者はなし。学校行事も特になし。今日の感想及びクラス内で気になったこと……。

     ここまで埋めて、いつものように手を止めた。学級日誌の最大の難関・自由記述欄だ。毎回一旦は律義に悩んでみるけれど、最終的に「特になし」と一言書いて終わるのが常だった。

     前のページをぱらぱらと捲り、参考にするために他の人の記述を読んでみる。学級会長の佐伯啓佑は、時事ネタとそれに対する自分の意見をそつなくまとめていた。こんな高度なことは、真似できそうもない。野球部エースの守谷太陽は、今日の弁当のこととか、登校中に犬を撫でたとか、もはや学級日誌と関係のないことを脈絡なく延々と書いていた。面白おかしく書けるような出来事なんて、俺にはなかった。


    ■「特別な感情をあなたへ」

    →クラスメイトに抱いた感情の正体について、あれこれ思い悩むお話。

    ・試し読み

     恋をするということは、自分が見ている世界の中に、恋しい人との接点を探すようになるということだと思う。

     部活の練習が終わるや否やその素敵なひらめきを翔(かける)に伝えてみたけれど、反応は予想以上に薄かった。

    「例えばコンビニに行くじゃん? 自分はそんなに好きじゃなくても、好きな人が買ってた商品が目に留まるようになるじゃん? 買ってみようかなって迷っているうちに、気づいた頃にはもうその人のことで頭がいっぱいになってるじゃん?」

     汗の始末をしている翔の背中に、補足するように一気に捲し立てる。こうして俺が話している間、翔は一瞬も手を止めなかった。体育館を動き回って汗だくの俺たちに対して、ここ男子ハンドボール部の部室は容赦なく冷え切っている。こうしている間にもどんどん体温が奪われていくから、さっさとジャージから制服へ着替えたい気持ちは分かる。


    ■「あたしたちの距離の求め方」

    →一年近く一緒に過ごしてきた友達に、ようやく自分の本音を伝えてみようとするお話。

    ・試し読み

     いっそ開き直ってしまえばいいのかもしれない。今まで通り市販品をラッピングして、それっぽい理由を並べてみるとか。あんなに楽しみにしていた二人に、あたし一人の事情だけで「手作り友チョコ交換会」を止めるように言うのは、結構心苦しい。あたし一人がうまいことやり過ごせさえすれば、何とかなりそう。

     それが一番無難な気がした。誰も傷つかないし、波風も立たない。

     でも、なんとなくしっくりこない気がするのはなんでだろう?

     ダメだ、モヤモヤする。気を紛らわせるように、顔を上げて首をぐるっと回してみた。端から端までみっちりと書かれた板書の文字が目に飛び込んでくる。やば、だいぶ長いこと話聞いてなかった。授業に意識を戻して、先生の聞き取りづらい声に耳を傾け始めた。

    「えーっと、で、恒星。夜空に光っている星です。あれはですね、こちらからですと天球に貼り付いているように見えますが、実際は地球からは何万光年と離れています。隣に並んでいる恒星同士もね、本当は遠かったりするんです。ところで、地球から見た星の明るさが分かれば、その星との距離が計算できまして……」

     一見近くにいるようで、実はずっと遠くにいる星たち。

     なんだか、あたしたちみたいだった。花梨や玲那と一番仲良しのはずなのに、今になっても自分の正直な気持ちさえ言えない。


    ■「ファインダー越しに見続けた世界」

    →離任式が終わった後の教室で、この一年間を振り返ってみる短いお話。

    ・試し読み

     掲示物をすべて剥がした教室は、一年をかけて積み重ねた思い入れも一緒に捨て去ってしまったようによそよそしかった。その中で、担任の栄転を祝うためにカラフルなチョークで彩られた黒板だけ、妙に浮いている。

     離任式を終え、最後のホームルームを終え、あとはもうこの教室を出るだけなのに、クラスメイトの大半は教室のあちこちに固まっていつまでも駄弁っていた。まるで、この教室を出た瞬間に「高校二年生」が終わってしまうかのように。その終わりを惜しむように。

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