金曜日、母からもらった俵万智の歌集をパタリと開くと、1ページ目にしろい紙が挟まっていた。折りたたまれた紙を引き出して、開くと、それは母が若き日に書いた日記だった。綴られる心情は、わたしの知らない母のものだった。
そうか、と思った。
こうやって、わたしたちは誰かの断片とともに日常を生きている。誰かのこころを受け取ったり、受け取らなかったり。知ろうとしたり、知らないふりをしたり。傷つけたり、傷ついたりして、そうやって巡り巡る輪のなかで、なす術もなく生き延びている。時々、死ぬ。
短歌抜粋
夕焼けに世界がぜんぶ燃えている夢を見ていたバス小一時間
沈黙の鑑のようなあなたからいつか言葉を引きずり出したい
傷ついたきみを癒した手のひらは誰かを殴った甲の裏側
海風が寝ぐせを梳いて広がる香ゆめは来世でクジラになること
本の帯ほつれ顔出す若き母かわらぬ筆跡かくしきれずに
愛し長女人生ひとつ掴み取れ右手がしかと塞がるうちに
闇の中こゆびが掠ったくじを引くわたしはあなたを知らないままで
もくじ
偶然と必然がであう
生き、傷つけ、また生きる
別れが好きなのは
失っても
目の前で死んだひと
声が出なかったこと、ある?
痛みを元手に
積もるもの、逃げられぬもの
帰り道
黙って待つよ
蘇り死ぬ
傷が傷、傷が癒し
ありがとう
朽ちてゆく
どうして
贈与論
あの人といた頃
死神
喪ったあとで
かつて
あきがきた
らしい欲
穢れ
reality
ひとりっこ
ひ保護者
イニョン
賜らんことを
さすればぬくい
あとがき
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