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銃と宇宙 GUNS&UNIVERSEスターターパック

  • き-30 (小説|SF)
  • じゅうとうちゅうがんずあんどゆにばーすすたーたーぱっく
  • かわせひろし、波野發作、山田佳江、にぼっくめいきんぐ、神楽坂らせん
  • 書籍|A5
  • 96ページ
  • 1,000円
  • 2023/8/18(金)発行
  • セルフパブリッシング・エンターテインメントSFマガジン『銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE』スターターパックです!
    ちょっと面白そうだけど途中からでは読みづらい、どこから読めばいいかわからない、そんな方に手に取っていただきたくて、連載作品の第一話を集めました。
    個性あふれる、宇宙を時空を駆け巡る冒険譚、全五作品です。
    お気に入りの一作をぜひ見つけてください!

    〈試し読み・アンフォールドザワールド〉
      1
     窮屈な世の中だとか生きづらいだとか人は言うけれど、そんなこと私には全然関係ない。だって、昨日なんて消えてしまったようなものだし、明日はまだ生まれていないし、私は今ここに立っている。
     なんてことを、動物園の芝生広場で語っていたら、ほのかが首を傾げる。
    「それはきずなちゃんが強いからだよー。ほのかはー、だれか支えてくれる人がいてほしいなあー」
     ほのかはちょっとだけ口を尖らせて、甘えるように私のことを見上げる。それからすぐに、手鏡に目線を落として、立ったままグロスを塗り直す。
    「私は別に強くないし。生きていくことが難しいなんて、よく分かんないな。ただ歩けば前に進むだけの話じゃないか」
    「私には、人生が下りエスカレーターを登っているように感じられますね。まるで」
     私とほのかの会話には混ざらないように、ちかこはひとりごとのようにつぶやく。安物の軽い三脚が、 草地の上にうまく立たないようで、彼女は小さく舌打ちをする。
    「てゆうか、ほのか、何回グロス塗り直すんだよ。どうせマスクして撮影するんだし、必要なくない?」
    「ひつよーなくないよー。きずなちゃん。気分が全然ちがうじゃない?」
    「うーん、わからん」
     平日の午後の動物園に人の姿は少なくて、私たちみたいな女子中学生がカメラを設置していても、だれも気に留めない。五月の日差しは柔らかく、光と影のコントラストも淡い。絶好の撮影日和だ。
    「ちかこちゃーん。ほのか、かわいく映ってる?」
    「絶対的には解りかねますが、相対的にはかわいく映っていると思われます。それなりに」
    「わーい、なんだかよくわからないけど、ありがとー」
     カメラの液晶を確認するときに、ちかこはいつも眼鏡を下にずらす。その横顔が、実はほのかにも劣らない美形だということに、私は気づいているけれど、人には適材適所ってものがある。仮にちかこを女優に動画を撮影したとして、ほのかにカメラは回せないし編集もできない。
    「きずな先輩。このような画でいかがでしょうか。ほのか先輩を右半分に、左側の背景にキリンの夫婦を入れています」
    「おっ、ばっちりばっちり」
    「ところでこの演出は面白いのでしょうか。キリンを紹介しようとしたほのか先輩が、あざとく転ぶという展開」
    「えー、面白くない?」
    「ほのかにはー、ちょっとわかんないかなあ」
    「撮ってみないとわかんないんだよ、私の意図は」
    「きずなちゃんはー、天才だもんねえ」
    「そう、私は天才だし! 目指せ、七十億PV!」
    「成功イメージを持つことは自己実現のための一般的な手法ですね。私には無理ですが」
     私は台本の書かれたノートを、メガホンの形に丸める。ほのかが白いマスクで顔を半分隠す。ちかこがカメラの録画ボタンを押す。初夏の風が私たちの髪を優しく揺らす。
    「さんのーがー、アクション!」
    「私たちはー、いまー、動物園に来ていまーす。どこの動物園かはひみつね。あっちがキリンのお父さんでー、あっちがキリンのお母さん。もうすぐ赤ちゃんが生まれるんだってー。あっ、ほんとだ。お腹がおっきいねえ」
     まるで今気づいたみたいに、ほのかが口元に手を当てる。ちかこは眼鏡をずらしたまま、少しかがんで液晶を見つめている。
    「かわいいなあー。ちょっと、近くまで行ってみたいとおもいまぅうえええええええっえっっ!?」
    「はあっ?」
    「えっ」
     唐突に野太い奇声を上げて、ほのかはその場に座り込む。ごうっと音を立てて風が強くなり、空が鉛色に変わる。
    「なに、あれ……」
     まるで悪夢みたいな光景だった。首を伸ばして木の葉を喰んでいた雌キリンの、膨らんだ腹がメリメリと音をたてて裂けていく。キリンは苦しむでもなく、傀儡のように虚空を見つめている。
    「で、出てきてるみたいですが。なにか」
    「いやああああああああああっっ! うわああっあっ!!」
    「かっ、カメラ! ちかこ、カメラだ!」
     私の声に、ちかこが慌ててカメラを持ち上げる。三脚をぶら下げたまま、ズームにして雌キリンの腹部をアップにする。風が、酸っぱいような生臭いような匂いを運んでくる。
     びちっぶちゅぶちゅっ。
     内蔵が破裂するような音がして、でもその身体からは血の一滴も出ていない。代わりに灰色の霧のようなものが漏れだしている。腹部が蜜柑の皮みたいに裂けて、ぼたり、と黒い影が地に落ちる。
    「キリンじゃ……ない?」
     その黒いなにかは、雌キリンの腹部から出てきたにしては、大きすぎた。小型の軽自動車くらいはあるだろうか。身体を震わせながら、四本の細い足でゆっくりと立ち上がる。霧のせいで、姿形がよく見えない。
    「……ズームが足りません。若干」
     息を飲んで、ちかこが一歩踏み出す。
    「ちっ、ちかこちゃん行っちゃだめえええっ!」
     座り込んだままだったほのかが、ちかこの両足を捉える。バランスを崩して転びそうになるが、体勢を立て直し再びカメラを構える。
    「こっちを見てる!」
     ほのかの声に反応したのか、黒い影は私たちに顔を向け、機敏にジャンプして柵を越える。キリンというよりはなにかに似ている。そうだ、ゴリラとかオランウータンとか、そういった類の巨大な猿。
    「いやあああああっ、こっちきたあああああっ!」
     そいつは威嚇するように低く咆哮を上げ、私たちの所へ走ってくる。身体が竦んで動かない。そして、高くジャンプをし、私たちのことを飛び越えて森の方へ走って行った。

      2
     私たち三人は、黒いなにかが走り去った後の芝生広場を、呆然と見つめていた。
    「今のはなんだったの?」
     芝生に座り込んだまま、ほのかが私とちかこを見上げる。マスクをしたままだったことに気づいたのか、それをアゴの位置にずらす。
    「てゆうか、キリン!」
    「あっ! って、ええっ?」
     慌てて振り返ると、園路を挟んだ向こう側にいるキリンの夫婦は、なにごともなかったかのように木の葉を喰んでいた。
    「なんともなっていないようですね。キリンの腹部は」
     恐る恐る、園路を横切ってキリンの柵の前に立つ。さっきまで確かに裂けていた雌キリンの腹は、大きく滑らかに膨らんだままだ。ちかこは三脚を園路に置き、撮影を続けている。
    「ここにいたのは、私たち三人だけだったのか?」
     私の言葉に、ちかこがカメラをゆっくりと横にパンして、園内の全景を映し出す。
     園路の向こう側から、銀色に輝く人影が歩いてくる。ちかこは動画を録画中にしたまま、顔を上げる。
    「おっ、女の子がいる。しかも三人も」
     近づいてきたその人は、私たちと同世代くらいの男の子だった。銀色に近い複雑な色味の半袖Tシャツを着て、グレーのスキニーパンツにグレーのブーツを履いている。気軽な笑顔で、私たち三人に話しかけてくる。
    「三人ともかわいいね。何歳? このへんに住んでるの? 名前は?」
    「えー、ほのかはあ、十四……」
    「人に名前を尋ねるときは、まず自分から名乗るのが礼儀でしょう。常識的に」

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