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太陽のホットライン

  • き-30 (小説|SF)
  • たいようのほっとらいん
  • かわせひろし
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 110ページ
  • 800円
  • https://bccks.jp/bcck/152965/…
  • 2018/2/9(金)発行
  • ちょっとドジで明るく元気な小学生、春日太陽は、親友の光とともに、プロサッカークラブ柏レイスターズの下部組織の入団テストを受けにきた。持ち前の足の速さを生かして、一次、二次とテストをパスしていく太陽は、無事入団できるのか……!  少年たちの友情と絆を描く、サッカーストーリーここに開幕!

    〈試し読み〉
     そろそろ冬も近づく日曜日。風はなく、ほどよい空気の冷たさに、頬がぴりっと引きしまる。空は快晴。いいサッカー日和だ。
     周囲を木々に囲まれたグラウンドに、色とりどりのユニフォームの子供たちが集まっていた。総勢二百名近くいるだろうか。
     今日は柏レイスターズアカデミーの、U‐12セレクションの日だった。
     柏レイスターズは、千葉県柏市に本拠地のあるプロサッカークラブだ。Uはアンダーの意味で、U‐12は十二才以下を指す。今日のセレクションは、来年六年生になる子供を募集する入団テストで、ここに集まっているのは、腕に覚えならぬ、足に覚えのあるサッカー小僧たち。プロサッカー選手を夢見て、入団を希望している子供たちだ。
     受付をすませて、セレクションの開始を待つ間、みんな思い思いに身体を動かしている。一人ボールをける子、友達とパス交換する子、ドリブル対決をしている子、さまざまだ。緊張気味で口数少ない子もいれば、興奮しておしゃべりになっている子もいて、その様子もこれまたさまざまだった。
     そんなグラウンドをながめて、そわそわしている男の子が一人。
     周りの子と比べて背は低い。顔も幼い印象。くりっとした瞳は落ち着きなく、辺りをきょろきょろ見回している。頬は紅潮して、興奮がかくせない様子。
     春日太陽。このセレクションに来ているのだから、幼く見えても、周りのみんなと同い年の小学五年生だ。
    「うわー、たくさんいるなあ。これみんなライバルなのか! ううー、負けらんねー!」
     そう言いながら太陽は、じたばたと足ぶみした。これだけ大勢いて、セレクションに受かるのは数名だという話を聞いた。それを考えると気持ちが高ぶり、じっとしていられない。
    「落ち着きなよ、太陽」
     そんな太陽に声をかける男の子も一人。
     月島光。太陽の親友だ。背はそう高くないけれど、太陽に比べるとずっと大人びて見える。実際とてもしっかり者で、落ち着きがなくおっちょこちょいの太陽は、いつもお世話になっていた。
    「だってさ、光。すっげー人いるよ? これ全員受けるんだろ? うー、興奮するー」
     太陽は本当に、いてもたってもいられない気分だった。両手をぶんぶんふり回す。それを見て、しかたないなあと光は苦笑いする。でもそういう光も、気持ちの高ぶりを感じているのか、自分を落ち着かせるように、大きくひとつ息をつく。
     無理もない。なにしろ、ここがプロへの登竜門なんだから。
     日本のプロサッカークラブは全て、選手を育てる下部組織を持っている。プロリーグに参加している大人のチームの他に、高校生、中学生、小学生のチームも持ち、未来のプロ選手を育成している。柏レイスターズアカデミーも、そのための組織だ。
     ここに入らなければプロになれない、というわけではない。ふつうの高校、大学からプロ入りする選手もたくさんいる。でもアカデミーに入ると、いろいろといいことがあるのだ。
     まず、ずらりと並ぶコーチ陣がすごい。元プロの人がぞろぞろとそろっている。中には日本代表だった人もいる。そんな人たちが教えているのだから、当然レベルは高い。
     そして、プロ選手を間近で見ることができる。プロのプレーをそばで見られれば、イメージトレーニングとしては抜群だ。最高のお手本がとなりにいるのだ。
     さらに高校生ぐらいになって将来有望となれば、トップチームでプロといっしょに練習させてもらえる。そのまま高校生でプロデビューすることだってある。
     なんと高校生デビューして、そのまま海外クラブに行ってしまった人もいるほどだ。ここから世界までつながっている。まさに夢の入り口だ。
     そして、数あるプロクラブの中でも、この柏レイスターズは、試合に使うスタジアムとトップチームが練習している天然芝のグラウンド、そして子供たちが使う人工芝のグラウンドまでがひとつの場所にそろっている、抜群の育成環境をほこっていた。
     そんな周囲の様子を見回して、光がもう一度太陽に言った。
    「とにかくさ、まず落ち着いてウォームアップしようよ」
    「そうだぞー、太陽。今日で一次と二次のセレクションをいっぺんにやるからな。今からテンション上がりっぱなしだと、もたないぞ」
     そうわきから声をかけたのは、中島コーチだった。太陽と光のチームのコーチで、引率でついてきている。太陽の地元チームから、太陽、光、礼央、裕也、陣と、五人が受けに来ているのだ。
     他のみんなはこわばった顔で、太陽を見ていた。緊張している様子が手に取るようにわかる。
     光とコーチ、二人の言葉に、太陽はうなずいた。
    「そ、そうだね、ウォームアップ。ウォームアップはしなくちゃ……あっ!」
     一段低くなっているグラウンドへ降りようとして、太陽は土手ですべってしりもちをついた。
    「だから落ち着きなって」
     引っぱり起こした光が笑った。他のチームメイトも笑っている。
     太陽はいつもこの調子で、どじをふんでは笑いを取る。本当に落ち着きがない。それは自分でもわかっているので、てへへ、と照れかくしに頭をかく。でもそのおかげで周りのかたかった雰囲気がほぐれて、太陽自身も少し落ち着いた。
    「さ、やろうよ、太陽」
     光はボールを取り出して、ぽん、ぽん、ぽんと、リフティングを始めた。ボールを地面に落とさないようにけり続けるのだ。正確にボールの真ん中をけると、ボールはまっすぐに上がり、その場から動かずにすむ。下手だと思ったとおりに上がらないので、ボールを追ってあちこち動き回ることになる。
     光はリズムよく、両足をたくみに使って、けり続ける。その場からまったく動かない。一目見て、うまいのがわかる。さすがだなあと、太陽は思った。
     光はチームで一番のテクニシャン。このセレクションでも、チーム内では合格候補の一番手だ。
    「ほい」
     リフティングをしばらく続けた光は、そのボールを今度は太陽にけってよこした。太陽はそれをけり返す。ショートパスの交換が始まった。
     たん、たん、たん、たん。
     パス交換はリズムよく、小気味よく続く。二人の息が合っているのが見てとれる。
     太陽と光は、新しくできたマンションに、今年の夏に引っ越してきた。夏休みの最中で、遊ぶ相手もいないしなあと、太陽が一人ボールをけっていたところ、やはり引っ越してきたばかりの光が声をかけてきて、友達になった。
     最初のその日から二人は気が合った。サッカーのプレーも、ふだん遊んでいる時も息がぴったりで、まるでずっといっしょだったかのよう。まさに一番の友達、親友になった。
     光といっしょにセレクションに受かりたいなと、太陽は強く思っていた。
    「受験者は集まってー」
     レイスターズのコーチの人が、メガホンでウォームアップ中の子供たちに呼びかける。セレクションの開始時間になった。子供たちはぞろぞろと、となりの人工芝グラウンドへ移動して、そのコーチの元に集まっていく。
     整った顔立ちの三十半ばぐらいの人だ。その顔を見た光が、こわばった声でつぶやく。
    「あの人、元プロの人だよ」
     それを聞いて、太陽はごくりとつばを飲みこんだ。やっぱりここはプロクラブなのだ。
     集まってみると、受験者はやっぱりすごい人数だった。
     太陽はどきどきが収まらない。興奮と同時に、不安もある。
    (だいじょうぶかな、受かるかな)
     レイスターズの小学生チームは四年生からスタートしていて、このU‐12、新六年生のセレクションで受かるのは、この二百人近い中からほんの数人。とてもせまき門なのだ。
     それでも絶対受かりたい。
     太陽は、ぐっと両のこぶしをにぎりしめた。さっき水分を取ったのに、もう口の中がかわいている。指先がじんじんとしびれる感じがする。緊張感が高まる。
     集まった子供たちを前に、コーチがあいさつを始めた。いよいよだ。
    「こんにちは。U‐12監督の平沢です。これからセレクションを始めます。今日は、ミニゲームと、それからその間に三十メートル走のタイム計測を行います。名前を呼ばれたら返事して、ピッチに移動し、そこのコーチの指示にしたがってください。それでは……」

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