こちらのアイテムは2024/5/19(日)開催・文学フリマ東京38にて入手できます。
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ため息は透明

  • 第一展示場 | E-37 (小説|純文学)
  • ためいきはとうめい
  • 絵:岡部千晶 文:棚花俊
  • 私が家出に思い入れるのは、1997年の特別な家出を忘れられないから。 幼い私の荷物はゲームボーイと財布だけ。 財布といっても小さな小銭入れには200円くらいしか入っていなくて、それで何かを買おうという発想も特になかった。 私にとってその頃のリアルは、ゲームボーイの中のポケモンの世界で、そこでは200000円の大金を持っていた。

    私のポケモンは壊れていた。 ゲーム内にはバグが発生していて、お金の価値というのも、実際のところあまり意味がない。 アイテムは好きに手に入れられたからだ。 マスターボールだって99個持っていた。 私はポケモンをバグらせるのにハマっていて、壁を抜けたり、自転車で海を渡ったり、くるくるとダンスを踊る山男に囲まれたり、身動きの取れない墓場に置き去りにされたり、私にとってそれは冒険そのものだったのだ。 当時のポケモンはセキュリティが甘く、バグの世界はとても豊かに広がっていた。

    ゲームボーイにはSELECTボタンという不思議なボタンが付いている。 何が不思議かというと、このボタンはあまり必要とされないボタンなのだ。 使わないこともないけれど使わなくてもいいボタン。 そしてポケモンのバグにとって、このSELECTボタンが最も重要なのだ。 マサラタウンとトキワタウンの間の草むらで、私はどうぐの画面を開く。 それから何番目かで、SELECTボタンを押すと、バグが発生する。 たとえば7番目で押せば、ポケモンのレベルは100になり、13番目で押せばどうぐ入れは四次元ポケットになる。 そうして何度もボタンを押し、押すごとにポケモンのデータは異常を来たし、予期せぬバグが起こるようになる。 ポケモンの醍醐味である通信対戦をさせてもらったことがない。 友達のカセットも壊れてしまうから。

    でも私はそれが楽しくて仕様がなかったのだ。 だから家出の持ち物として、疑うことはなかった。 私はどうぐの1番目にポケモンのセットされたゲームボーイをセレクトしたのだ。


    絵と言葉が交錯する地点にバスがやってくる。

    画家岡部千晶の絵と詩人棚花俊の小説との豊かな重奏。

    「ポケモン赤緑、ガナヒビ、岡崎京子、安川奈緒、ソフィカル、マームとジプシー、badbrains、トムは真夜中の庭で、様々な声がこの小説には宿っている。夜目真須果」

    「1と0の二進法で表現できない息遣いが確かにこの本からは聞こえてくる。マーティスガコナルド」

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