もう直ぐ我が身にやって来る死を恐れながらも、生に執着出来ない少女鼎(かなえ)は、美しいものに心慰められる、と語る少年明星(みよせ)に出会う。彼と話す内に、彼女は幼い頃、夢の中で名前の無い友達と遊んだ事を思い出してゆく。彼女は死という夢幻の旅路へと踏み出すのか。それとも死を否定し続けるのか。夢と現とが混じり合う中で、彼女が行き着いた世界とは。
「でも、僕を呼ぶなら一つだけ」
家の前に着くと、また目の前で膝を突かれる。目線が勝ち合って、何となくくすぐったい。なあに、と問うと、ほんのり悪戯っぽい表情が見えた。
「さっきみたいに、下の名前で呼んで欲しいなって」
驚いて何回も瞬きをすると、明星はにこにこと笑って立ち上がる。ああ嬉しそうな顔をしてる、と思って、不思議とほっとした。空を仰ぐと、月が出て居た。夜は綺麗だよ、と今一度言う。一番星も見つけた。綺麗でない筈が無い、と感じる。
「夜は綺麗だよ、明星の居る処だもの」
大きな声で歌う様に言うと、夜の風が吹いて来た。湿った髪が後ろに靡いて、気持ちが良い。心が動いて居るんだ、と思う。身体の代わりに、心が走り出して居た。
「ありがとう鼎ちゃん、夜を綺麗にして呉れて」
そう言って彼は手を振る。深い色の瞳は、星を湛えた様に光って居る。本当の事を言えたんだ、と確信して、鼎も手を振り返した。
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