▼文フリ東京新刊
愛よりも恋よりも、もっと。
「俺、一生ひとを好きになれないんじゃないかな」
楓香と楓は、なんでも共有しあう仲のいい双子の姉弟。 容姿の美しい楓は、多くの女性から好かれるものの、虚ろな心を抱えている。楓香はもどかしい思いで双子の弟を見つめているが── (ふたご星)
◇その他6編
【眠れない夜に寄り添う七編の物語をあなたに】
◆収録作品
・花の砂糖漬け
・ふたご星
・永遠の夜を照らして
・親友という名の崇拝
・いばしょのばしょ
・悪友
・拝啓 いつかの約束
◆試し読み
楓は双子の姉の私でさえ見惚れるほど美しい男の子で、それなのにというか、だからこそというか、女癖があきれるほど悪い。
椅子に片膝をたたんで座る行儀の悪い姿勢も、騒がしいテレビを眺める物憂げな視線も、コーラのペットボトルの飲み口をだらしなく舐める赤い舌も、楓の一部であるというだけで何か特別な宝物みたいに輝いて映る。
私がテーブルにポテトチップスの袋を裂いて広げると、楓の切れ長の瞳が私を見た。
「俺も食べていい?」
「いいよ」
長く美しい指が油にまみれた菓子を摘まむ。
私たちは性別こそ男女に分かたれたが、互いの周りを巡り続ける双子星のように、いつも寄り添って生きてきた。まるでひとつの魂を二人で分けあったみたいに、補いあって、重なりあうことを避けて、傍にいる。
「楓香、俺一生ひとを好きになれないんじゃないかな」
汚れた指先を舐めながら、楓がぼんやりと言う。私はポテトチップスを二枚まとめて摘まんで、できるだけ軽く返す。
「そんなことないよ、楓はいい奴だもん」
無責任な言葉で肯定しても、彼の心の空虚さは払拭できるはずもない。
楓は恋愛に関して、本当にひどい男だ。
同時並行はいつものことで、体だけの関係も、お金を介した関係も、その他あらゆる「悪い男」の要件を、楓は余すことなく満たしている。それら全てを楓は双子のうちで共有するものだから、私は危うく男性不信になりかけたけど、ようやく穏やかな恋人を見つけた。
「いいよな楓香は。幸せいっぱいなんだろ、今」
「あんたこそ、このまえ付きあってたモデルの子はどうなったのよ」
私が問うと、楓は目を眇め、テレビの方へと顔を向けた。
楓はいつも「たった一人の特別な相手」を探している。それはもう、痛切なほどに。
けれど今の彼にとってそれは曇り空に光る星を探すようなもので、雲が晴れない限り永遠に見つかるべくもない。
楓の薄い唇が、言葉を象る。
「誰も彼も同じに見えて、みんな下らなく、つまらなく思える」
彼はいつも、率直な本音を私にだけ打ち明ける。私も楓に秘密がない。私たちは、本当に仲のよい双子だ。
だけど、彼の虚ろな心を垣間見るたび、私は不安に襲われる。
私たち本当は、寄り添いあった双子星なんかじゃなくて、見せかけだけ近くに映る二重星なんじゃないかな?
心の距離は、実は何億光年も離れていたりして。
(ふたご星)
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