01 「教室」 石井僚一
AはBのまるい横顔を/まっすぐ見つめている/Bは頬杖をつきながら/窓の外をぼんやりと眺めている――教室の一景をAからZまでの視点を通して淡々と描く小さくて寂しげな物語詩。
02 「マーズ・エクリプス」 笹帽子
火協連第三開発区の管理官を務める桜井あかりは、三年前の事故で失った情報予言知能を再構成し、地火間無遅延通信を稼働させる。だがその瞬間ネットワークに流れ込んできたのは、彼女自身の死の証明だった。距離と時間を超越する、宇宙移民分散型歴史記述コンピューティングSF。
03 「大勢なので」 murashit
っていうか無限なので。
04 「分散する風景」 小林貫
いずれ訪れる母の死を想像して夜泣きしたわたしは、代替母の死をもって心を慣らすことに思い当たる。三十代も半ばに差しかかり黒ぐろ冴えわたる不安の底に、不可抗に沈んでいく。
05 「電子蝗害の夜」 三好景
地球上の広範な地域に突如として発生した動物の群れの異常行動、通称《群禍》の背後には、魚群探知師と呼ばれる高解像度ソナーを携えた言語学者たちの姿があった。群れを操る新言語で書かれた世界初の小説作品、待望の全訳。
06 「なまえ」 鴻上怜
不確かな恋の予感が少女の心をゆらし、知己の女は若き日々を想う。伊豆の離島の凪いだ空気のなか交わされる、いくつかのささめきこと。