19世紀フランスの小説家・美術批評家シャンフルーリ(1821-1889)による晩年の東洋論『諷刺画秘宝館』のうち日本の部「日本の諷刺画」の訳です。 (原典:Champfleury, « La caricature au Japon » dans Le musée secret de la caricature, 1888) (太田記念美術館 第34回(2017年)浮世絵研究助成 受賞) 日仏ともに社会の激動と出版業の隆興によって諷刺画の栄えた19世紀、シャンフルーリは親友ボードレールの勧めで西洋の諷刺画史を通覧する「諷刺画の歴史」シリーズ全5巻を刊行したあと、そこで扱わなかった東洋の諷刺画について『諷刺画秘宝館』にまとめます。 そのため、本書はジャポニスムの流行した19世紀フランスの浮世絵論でありながら、広重の風景画や歌麿の美人画のような日本らしい美を描く浮世絵ではなく、同時代の普通の人々の生きざまを軽妙に描いた北斎と暁斎の「漫画」に着目していることが特筆されます。 かの有名なゴンクール『歌麿』(1891)『北斎』(1896)よりも早い、おそらく西洋で最初の浮世絵批評です。