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少年

  • Fホール(2F) | エ-17 (小説|BL)
  • しょうねん
  • きと
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 96ページ
  • 400円
  • http://www.pixiv.net/novel/sh…
  • 2015/8/30(日)発行
  • 【裏表紙あらすじより】

     俺は昔、誘拐された事がある。

     さらわれた少年と、さらった男。
     その関係は徐々に変化し、密接なものになっていく。
     しかし、男は自分を慕う少年を解放した。
     それは一体何故なのか。真実を知りたい少年は男を探し続けた。

     この感情は気の迷いでしかない。貴方はそう言うのでしょうか……―――

    【冒頭見本】




     俺は昔、誘拐された事がある。
     桜の綺麗な季節だった。
     今はまだ、桜なんて咲いていない。窓から見える夜の小学校は閑散としていて、校庭の周囲に植えられた冬枯れの桜がその空気を一層際立たせている。コンクリで造られた校舎内には、警備員が時折通るらしい。窓を走る懐中電灯の光が、見る者に薄ら寒い感覚を与える。今のは人魂じゃないか、なんて……ガキみたいな事を考えてしまう。
     ……そう言えば、あの時もそうだったな。
     俺は、あの学校の前で誘拐された。自分が通っている小学校ではなかったが、塾がこの辺だった。電車に乗らないといけなくて、小学生が通うには遠すぎる場所。しかも、静かな住宅街のど真ん中。それが仇になったんだろう、と今なら分かる。この学校が俺の家の近所だったら。周囲に、知り合いの家があったら。
     あるいは、誘拐されずに済んだかもしれない。
     いや、俺が花見をしていたから悪いのかな。
     俺がこんな住宅街の暗い道を選んで通っていたのは、小学校の桜が満開だったから。家の近くには桜がなくて、自分の学校は春休みだった。そして花見に行こうにも、親は二人とも忙しい。
     だから、桜を見られる所って言ったら、塾の行き帰りにもなるこの学校しかなくて。俺はこの学校の存在、桜の存在を知ってからと言うもの、毎日毎日行きと帰りには必ず桜を眺めていた。このおかげで遅刻しそうになった事も、一度や二度ではなかった。
     だから、目を付けられたのだろう。
     あの日は授業が長引いて、帰るのがやたらと遅くなってしまった。親が迎えに来るヤツもいたけど、俺はそんな期待をするだけ無駄だと悟っていたので、一人でさっさと帰る事にした。送ってあげるよ、なんて女の子に言われても突っぱねた。
     桜が見たかったから。
     俺はショルダーバックを揺らしながら、ポケットに手を突っ込んで歩いていた。足下には桜の花びらが散って、アスファルトの道に降ってくる。薄桃色の絨毯を踏み締めながら角を曲がって、校門前のガードレールに腰かけた。いつもの定位置。
     すると間もなく、後ろから伸びてきた手に口元を覆われ意識が遠のいた。押し当てられたハンカチに、薬でも染み込んでいたらしい。俺の意識はあっさりと落ちて、次に気付いたのは誘拐犯の部屋だった。
    「……さむ」
     自分が誘拐された時の状況を逐一思い出していた俺は、窓から吹き込む冷たい風に身を震わせた。いくら厚着をしていても、夜風は体に悪い。窓を閉め、ベッドに倒れ込む。
     伸びた腕にテレビのリモコンが触れ、反射的にスイッチを入れていた。夜中のニュース番組だ。ここ最近巷を騒がせている、ある事件を報道していた。誘拐事件、だそうだ。けどきっと、この子も見つからないんだろうな、なんて考えてしまう。俺がそうだった。
     テレビのスイッチを切り、布団に潜る。電気を消そうとして、見慣れた天井に溜め息を吐き出した。二年間、毎日見ている天井だ。
      俺が此処から離れられないのは、その誘拐犯が再び戻ってくる可能性を考えてだった。ありえないと思うのに、どうしても引っ越す事ができない。自分が誘拐されて、そして帰された場所。この学校の前だけが、今の自分と彼を結びつけている。
     自分自身の本当の情報を、何一つ残さなかった男だ。戻ってくるはずがない。待っている事自体が、馬鹿げている。
     考えてもキリがないので、寝る事にした。明日はバイトが入っている。もう遅刻はできない。あやふやな記憶を頼りに男を捜してばかりいるから、遅刻なんてしょっちゅうだ。次に遅刻したらクビだ。
     寝よう。
     寝て……バイト行って……それから……。
     ……それから……────。

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