【収録作品】
夜に沈む-Voyager-
世界は今や、人口増加や異常気象などの様々な問題が起きていた。人類はいくつかの問題を解決するために『オリオンズ・エンデヴァー計画』を打ち出す。外装を宮沢賢治「銀河鉄道の夜」に出てくる列車と似せた移住船「オリオンズ・エンデヴァー号」で宇宙へと進出するのだ。時を同じくしてある町では、人々の願いを叶える魔女の噂があった。
「私の夢は空を飛ぶことです。空を飛んで、本当に宇宙に鉄道があるのか確かめたいです」
・ハリネズミダーク
大学を卒業してから私は就職することもなく、同棲している彼氏のヒモへと成り下がっていた。モラトリアムを消費して、これからも意味のない毎日が続くと思っていた。けれど、そんな毎日も終わりが迫っていた。「ハリネズミのジレンマって知ってる?」と言葉を残して、彼氏が家に戻らなくなってしまった。
『量だと思う。まぁ、人の恋を笑わなければどっちでもいいけど』
・冬眠、遠雷、秋を待つ
彼女である菜月が飛び降り自殺をしてから四度目の夏が来た。世界では今、異常気象の影響で寒い夏が続いている。菜月が亡くなってから文字通り、この世界からも夏が失われてしまったのだ。僕は苦い思い出に区切りを付けるため、菜月の住んでいたマンションを訪れた。『死にたいわけじゃないのよ。ただ、冬眠したいなって思うだけ』
・雨音の世界
『すみっこ』と呼ばれる部屋ある。中学校に併設されている不登校児が集まる部屋で、クラス復帰を目的とした特別支援学級だ。一年生の五月に私は『すみっこ』へ訪れ、そこで一人の男の子と出会った。大人になった今でも思い出す。本当の自由とは何なのか求めていた、あの雨の日のことを。「『すみっこ』はさ、水槽の中みたいなもんなんだよ」
・炉心融海
僕の友人であった女の子、椎名は星見海岸で溺れて亡くなった。しかし二年後、椎名が海漂っているのが発見される。その傍らに、一匹の鯨を寄り添わせながら。神の使いと呼ばれる鯨と、趣味も嗜好も何もかもが昔と変わり、別人になったかのような椎名。そして、未曾有の大震災が迫っていた。「防ぐことはできるよ。私達の命と引き替えにね」
全編公開
https://text-revolutions.com/event/archives/7841
・私の嫌いな君の好きな声
私は私の声が嫌いだ。けれど、その声すら聞かなくていいようになる。私の聴覚機能は失われつつある。世界的にも例の少ない症状だそうだ。確立された治療方法はなく、特効薬もない。失われていく時間の中で、私は夕陽がよく見える陸橋の上である男の子と出会う。男の子の声は、とても明るい声だった。「嫌いだよ、私は。私の声なんて」
・夜に沈む‐flyby‐
オリオンズ・エンデヴァー号が打ち上げられる日、私はこの町に帰ってきた。歴史的瞬間なのだろう。でも私はこの計画が嫌いだ。失敗してしまえとさえ願う。月に移住できる者と地球に取り残される者。その線引きはどこにあるのか。そして私の目の前に、人々の願いを叶えるという魔女が姿を現した。「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう」
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