こちらのアイテムは2017/11/23(木)開催・第二十五回文学フリマ東京にて入手できます。
くわしくは第二十五回文学フリマ東京公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

みきのくち 第二号

  • Fホール(2F) | カ-42 (評論|文化研究)
  • みきのくち だいにごう
  • まつのうろ会一同
  • 書籍|A5
  • 56ページ
  • 500円
  • 続いちゃいました「みきのくち」!今回もテーマは「民俗学」。それ以外は自由!
    某大学地下室に集った同好の士たちそれぞれがまたもや好き放題に書き綴ります。
    以下目次・執筆陣・一部内容紹介

    広場・塔・メディア ― 新海誠作品における新宿    ……山ン本五郎左衛門


    学 校における伝承と伝播にむけて― 中学校の部活動の応援から ―…… 山ン本五郎左衛門


    食のLesson初級編 ―『ファーブル昆虫記:セミの鳴き声』を傍らに―…… ハンミョウ


    書評『新修福岡市史特別編・福の民:暮らしのなかに技がある』…… 山ン本五郎左衛門


    釣れ釣れなるままに~趣味的民俗学~ ……… 八八艦隊加賀の航海士


    書評 伊藤慎吾編『妖怪・憑依・擬人化の文化史』…… 山ン本五郎左衛門


    遠山谷の民俗報告書の紹介―祭りを支える地域社会を知る―……… やまと


    書評 朝里樹『日本現代怪異事典』……… 山ン本五郎左衛門


    アニメ文化における「ぬい文化」から見る物の魂……… 六月のあめ



    「食のLesson初級編 ―『ファーブル昆虫記:セミの鳴き声』を傍らに―」より冒頭抜粋

     私は去年の晩夏、思い出の伊豆は大沢温泉へ訪れた。見たこともないような野鳥、家屋の中にまで侵入してくる大型昆虫、朝昼晩と堪能した山の幸川の幸、普段日常生活を送っている都市部では決して体験することのできない溢れんばかりの野生……。そんな幼い頃の家族旅行での思い出がどうしても忘れられず、私は単身、格安切符を握り締めて旅に出かけたのであった。東海道本線から伊東線に乗り換え下田へ。さらにそこからバスに揺られて山道を登ること一時間弱。大沢温泉駅で下車したのは私ただ一人であった。本当は真夏の間に昆虫採集も兼ねての旅行としたかったのだが、雑事に追われること二割・怠惰七割のせいで結局九月初旬までずれ込んでしまった。露天風呂の管理人が素泊まり用の小屋を開放しているということで、そこに一泊することにしたのだが、夕方あたりに温泉に客は程々に来るものの宿泊客は私ただ一人であった。かつてはこの地にも内湯付きの立派な宿泊施設があった。古民家、「旧依田邸」を利用した旅館で、記憶が曖昧なのだが幼い私もここに泊まったのではなかったか。現在は観光用に中を見て回れるように解放されており、私が訪れた時もボランティアの案内人の方が内部の説明をしてくれ、お茶までご馳走してくださった。依田は養蚕で栄えた豪士である。依田邸内自体に養蚕工場を築き、絹の需要の高まるままに富を得た。在りし日には決して交通の便の良いとは言えないような場所へも絹を求める交易路が張り巡らされていたのだ。旧依田邸にあった養蚕の設備は、まさしく工場と呼ぶにふさわしいものばかりであった。そこには昆虫の持つある種のグロテスクさを感じさせる要素は何一つなく、無機質にシステマチックな大量生産施設の名残がただただあった。蚕ほど、人間のもとで徹底的に自然界と切り離され管理された生物もそうそういまい。

     さて旅から帰って半年、私は現在卓上に置かれた蚕の蛹の缶詰を前にして困り果てている。友人が旅の土産として渡してきた。しかし私は今まで食べたことのある昆虫の中で蚕の蛹が一番苦手なのである……今年度に入って一人暮らしを始めた私の動物性タンパク質不足を気遣ってのプレゼントらしいのだが、正直に言って食べ物に拘らないのでもう少し別のものの方が良かった。イナゴ等の比較的食べやすい種類の昆虫と比べて味に癖が強いこともさることながら、なかなかに見た目がグロテスクである。蚕に無機質さを感じると言ったが、繭を剥がせばやはりムシはムシなのだった。しかし何故ここまで私の神経は蚕の蛹に対して拒否反応を示すのだろうか。大きさ、シルエットで見れば百万歩譲ってサワガニ等と近縁のものと言えなくもない。そもそも毒など全く含まれていないことは了解済みなのだし、調理されていれば食べることは何ら問題はないではないか。私はここに、現代社会で日常を過ごすうちに得てしまった何らかの刷り込みがあると見ている。

     ここで蜂蜜へと話題を移してみよう。この甘味もまた、昆虫から採取された食物を「昆虫食」とするのであれば一種のそれであるに違いないのである。とはいえ、私は全く自覚する必要は無いと考えている。大多数の人間が食卓に登った牛肉から日常的に牛の屠殺現場を連想しないように。常々思うのだ。何故、昆虫食というと度々食材の原型を無駄に残したようにしか見えない料理が目に付くのかと。もっとカジュアルに、ゲテモノとしてではなく昆虫食を楽しめる努力の余地は調理方法、入手方法、はたまた考え方その他色々な分野に多分に残されている気がしてならない。今回は人間による野生のハチ類の利用の事例を先行研究と私自身がフィールドワークで得た中から見ていきながら、如何にして昆虫は日常の中へと溶け込んでいけるのかを検討したい。……







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