《ムーンライトノベルズ日刊完結部門一位作品》
「石油王×コンビニバイト」シリーズ完結編。
【本編あらすじ】
アラビアの生活に慣れた頃、沙紀はホームシックに陥る。そんなとき、シャフィークが付き合っていたという恋人の影がちらつき、沙紀の気持ちは乱れてしまう。街で知り合った男に気晴らしを持ちかけられるが、そこにはとんでもない罠が潜んでいた。
【同人誌版書き下ろし番外編あらすじ】
「だれかいるのか?」
音がした方向を向くと、頭にグトゥラを巻いた十歳くらいの少年が珍しいものを見たような顔で、こちらを凝視していた。
「こ、こんにちは。僕、この近くに住んでるんです」
シャフィークの目つきが悪かったせいか、少し怯えたようすだ。
「我々は今来たところだ。よろしくな」
シャフィークは軽く微笑んで右手を伸ばす。子供の前でこれ以上いちゃつくのも教育上よくないかもしれないので、沙己(さき)とは少し距離を置いた。
沙己も少年に目を向けると、双眸を細めた。シャフィークそっちのけで、少年に近づき話しかけている。
「こんにちは、俺は沙己。きみの名前は? いくつ?」
(サキは子供が好きなのだな)
少年は、はじめのうちは戸惑っていたが、沙己が地面に図を書いて日本の遊びを一緒にしよう、と持ちかけると一緒になって遊びに興じはじめた。言葉もあまり通じていないようなのに、好意を示す沙己に少年も屈託のない笑顔を見せている。
「ほら、シャフィークさんも来て下さい」
いつの間にか、沙己のペースに巻き込まれてゲームをしている自分に気が付く。沙己の天真爛漫さは、人種も国境も越えて人を朗らかにするらしい。
「ふぅ。久々に走った」
いい大人が二人も揃って、少年と一緒に炎天下で蹴り鬼をして遊んでしまった。最後は鬼になるのが嫌なあまり、自分の年齢も忘れて沙己や少年を追いかけた。
「サキ、シャフィーク。家の中においでよ。陽差しがしのげて涼しいから」
少年に誘われ、湖から少し離れたところにある土煉瓦の家にお邪魔する。水の入ったグラスを差し出され、ありがたく飲んでいると、少年が沙己に小瓶を手渡していた。
「なんだ、それは?」
「今日遊んでくれたお礼、だそうです。ひとつしかないから、元気のない人が飲んで下さいって」
「滋養強壮剤のようなものか。ありがとう」
少年に向かって礼を言うと、顔をくしゃっと歪めて微笑んだ。素朴な優しさが、都会に慣れたシャフィークには温かく感じる。この少年と会うことはもうないだろうが、いい出会いだった。
少し涼を取り落ち着くと、日が陰ってきたことに気が付いた。砂漠の夜はとても冷える。さすがに泊まる用意もしていないので、シャフィーク達はジープを運転して帰路に就いた。
沙己の家に戻り、ありあわせの夕食を食べる。汗で湿ったカンドゥーラが体に貼り付いて気持ち悪いので、先に風呂を使わせてもらう。髪を乾かしながら、今夜はもう遅いし、沙己の家に泊まろうかと思ったときだった。
(そういえば昼間、栄養剤をもらっていたな)
着ていた服から少年にもらった小瓶を取り出し、冷蔵庫の扉ポケットに仕舞う。どんな効能があるか分からないが、せっかくの好意だ。しばらく保管しておこう。
「いいお湯でした」
リビングのソファで寛いでいると、パジャマ姿の沙己が風呂場から出て、ゆっくりとこちらに向かってくる。湯上がりのせいか、頬がピンク色に染まっていてかわいらしい。東洋人の幼い容貌も相まって、まだ十代に見える。
「喉渇いちゃった。ジュースが欲しいな。……これでいいや」
カウンターを隔てたキッチンで、なにやらぶつぶつと呟いている。
「サキ?」
キッチンのほうを見ると、沙己が少年からもらった小瓶に口を付けている姿が映った。見守っていると、あっというまに小瓶を空になるまで飲み干してしまった。
「全部飲んだのか」
「とにかく甘いものが欲しかったので。栄養ドリンクみたいな味がしました。美味しかったですよ」
けろり、と答える沙己に、なにが入っているか分からないからと怒る気も失せる。冷蔵庫に仕舞ったのはシャフィークなのだ。
(怒っても、すでに飲んでしまったのだから意味がないか。それにあの少年も、仲良くなった者に毒を渡したりはしないだろう)
テーブルに置いてあったタブレット端末に手を伸ばし、今日のニュースをチェックする。しばらく没頭していると、沙己が隣にちょこんと腰掛けてきた。
「どうした?」
濡れたおかっぱ頭を撫でると、沙己がうっとりとした目つきになる。
「なんだか、シャフィークさんのそばに来たくなって。俺、邪魔ですか?」
舌っ足らずの声でそう言いながら、体をシャフィークにすり寄らせてくる。
「邪魔なものか。いつでも大歓迎だ」
持っていた端末を脇に置き、両腕で沙己を抱きしめると、沙己がパジャマの前ボタンを外しはじめた。
「サキ?」
「暑い……。風呂に入ったせいかな。暑くてしょうがないんです」
沙己は前ボタンを全開にすると、パジャマのシャツを脱ぎ捨て、あっという間に下着一枚になってしまった。
「シャフィークさん、俺ヘンなんです。さっきから頭が茹だっているみたいで、いやらしいことばっかり考えてしまう」
ソファに腰掛けるシャフィークにどんどん近寄ってきて、首に抱きついたかと思うと膝を跨いで馬乗りになってくる。
「体だって熱くって、あそこがじんじんする……」
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