人里離れた奥地に、時の流れから切り離されたような小さな街がある。四方を山に囲まれ、またその外側にも山が連なる秘境であったために、人の往来はなく、街の外れに居を構えることとなったとある一族が移り住んで来て以来――それもまた遥か昔のことであるが――外界との接触は殆どなかった。おかげで街の人々の暮らしは非常に質素で、みな一様にいわゆる農耕民として、自給自足の生活を送っていた。街で得ることのできないほんの僅かな資材のみ、二、三ヶ月に一度、これも遥か昔から代々その職を受け継ぐ、決まった商人が売りに来るのみであった。
少々時代が遅れている程度で、尚且つ非常に保守的な社会が形成されていること以外、一見すれば何の変哲もないごく普通の街。しかし、この街にはある不思議な現象が……いや、街の人たちにとっては(この街で生まれ育った私を含め)当たり前の日常に過ぎないのだが、外界とは決定的に違う〝ある自然現象〟が起こることを、先に記しておかなければなるまい。
連なる山の向こうへ赤く燃える太陽が沈み、街中の石造りの家々にあかりが灯る頃、どこからともなくフワリフワリと舞い降りる――そう、それはまるで蛍が群れをなして空から飛んできたかのごとく。はたまた、ダイヤモンドダストと呼ばれるあの細かな雪の結晶が宙を舞い虹色に輝くように。
この街には、光が降るのだ。
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