でも、お前はヤマネコの人間だし、俺はウミガメの人間だ。それは変わらないんだよ
「王女には夢がない」は2009年にA5版で刊行し、文学フリマ非公式ガイドブック(当時)第3版にご紹介頂いた熱帯ファンタジ三部作の2作目です。この度、「雨の匂い、石の祈り」として文庫化することにしました。「雨の匂い、石の祈り」は分売不可なのですが、旧版はまだ在庫が少しありますので、そちらは単品でお求め頂けます(頒価300円)。
この世界の王は、最も精霊に愛された者である。王位継承者はその証として、青と赤と緑、三色の宝玉に飾られた「聖印」を持つ。
艶やかな長く黒い髪、星の光を宿した瞳。離宮の主は夜の王女と讃えられる。
夕暮れと共に響く太鼓の音。篝火の燃える音と匂い。酒と花と汗の匂い。
これは、そんな国で暮らす人々の物語。
人を拒む密林の中、湖畔に築かれた美しい離宮には王位継承者であり、亡き王妃の忘れ形見の王女が暮らしている。ウミガメ族の若者イカンは、幼い頃よりこの離宮にて暮らし、長じてからは兵士として仕えている。彼の得物は棍。達人と噂される隊長に憧れ、日々鍛錬に励む。その左手には、彼が炎と武芸を象徴する精霊の加護を受けていることを示す赤い石。
王が新しい妃を娶り、王子が生まれたことが氏族間の権力闘争に火をつける。王子を擁するヤマネコ族が王女を警護する名目で離宮に兵を駐留させ、ウミガメ族との間に緊張が走る。
太陽の季節、月が満ちる夜。王女の生誕を祝う大祭がヤマネコ族の族長も招いて盛大に催される。宴の最中に起こった事件が、イカンを大きな潮流に呑み込んでいく。そして、若者は自分の意志で決断をする。
この「赤」と「火」、そして「兵士」の物語に解説文を寄せて下さったのは藤丸心太/ジン太(@fujimarujinta)さん。ジュヴナイルSFを中心に書かれていて、もともとはSUMMER CAMPというサークルで文学フリマに参加されており、お互いの作品に感想を送りあったりして親しくさせて頂いてます。最近は電子書籍に重心を移されているようです。ブログはこちら。
僕自身、描きたいテーマがあったり、描きたい舞台があったり、といった物語の構造から小説を「構築」するところがあるのですが、ジン太さんも近い傾向があるんじゃないかなあという気が(勝手に)しています。キャラクターが魅力的なのはそうなんですが、そこを差し引いた「構造」部分にも強い魅力を感じる物語を書かれています。
三部作の中でもこの「王女には夢がない」は彼ら彼女らが生きている世界、国の政治とかに重点が置かれていることもあり、一番プロットがかっちりしている作品でもあります。なので、ジン太さんがどういう風にこの作品に解説を書いてくださるのか楽しみにしていました。実際に上がった解説文を見ると、自分自身が意識していなかったところまで読み込んでくださっていて、「ああ、そういうことだよなあ」と作者である僕が思うこともありました。こういう気づきが、他の人に自作を評して貰う喜びですよね。
それでは、暖かく湿った空気と噎せ返る緑の匂い、雲の向こう、雨の隙間、太陽が踊るあの場所で。
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