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あたたかいということは ずっとつづいていくということ

  • Fホール(2F) | ア-18 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • あたたかいということは ずっとつづいていくということ
  • 植岡勇二
  • 書籍|B6
  • 300円
  • 2015/5/4(月)発行
  • あたたかいということは ずっとつづいていくということ

     概要:あの頃の僕らはいつでも偶然の奇跡の中にいた。僕ら三人は、長野の高遠の山奥に泊まりに行く。何もないその場所で、心を交換し合った三人は、旅の終わりに、心のつながりが生んだ小さくて大切な奇跡を体験する。実話をもとにした短編小説。400字詰原稿用紙換算枚数・7枚。 


     町から四十分程、山道を上がった所にある、後藤くんのおじいちゃん家は、舗装された細い道が一本と、それに沿う電線、細い川が走っているだけという、文字通り何もない場所にあった。  
     しかしその、『何もない』ということが、当時の僕らにとっては、素晴らしいことだった。何もなかったからこそ、僕ら三人は、飽きることなく語り合うことができたのだから。    
     毎晩、夕飯を終えると、家の前の、全然車の通らない道端に座り、月が雲に隠れたりまた現れたりする中で、僕らはただ思い付くままに何時間でも語り合って過ごした。  
     十九歳の春、後藤くんと高澤くんが、地元神奈川から沖縄まで自転車で旅をした時の話。幼なじみの二人は、道中喧嘩ばかりしていたと言って後藤くんは笑い、高澤くんは未だ恨みでもあるかのような苦い顔を浮かべた。  
     僕が高校の時にカケオチをした時の話。もう引き返せないという状態に、自分を追い込んだ時、電車の中で、足下がなくなるような目眩を覚えたことを僕は語った。  
     嫌いだった学校の嫌いな先生の話。後藤くんは何度も先生に殴られたと言っていた。  
     初めて女の子を抱きしめたときの感触について。純な話で終わらず、その時、勃起したか? しなかったか? と真剣に確かめ合った。  そして、コミュニケーションの難しさと素晴らしさ、自分たちの不器用さについて。  
     夜が深まり、月が山の影に隠れても、僕らは、互いの境界線がなくなる程深い闇の中で、話し続けることをやめなかった。  
     もちろん、昼には川遊びや山登りもしたが、やはり僕らには、この時間が一番親密でいられて、一番、心躍るもののように感じられたのだった。(つづく)  

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