「翻訳家って良いなって思って、目指そうかなと思うんですよね」と、アイスブレークで言われることがよくあります。それは僕の仕事を褒めてくれているのかもしれないですし、本気でそう思って半分くらいは相談しているのかもしれません。僕はこれに対して、「楽しい仕事ですよ」と言います。本気でそう思って言っているのですが、「だからオススメです」という意味ではありません。
本書は、翻訳家というものについて僕(堂本秋次)が考えたことや学んだことなどをまとめるものです。第Ⅰ章から第Ⅲ章までと付録としての第Ⅳ章から成り、第Ⅰ章では最も現実的な実務や収入、働き方などの面について触れています。第Ⅱ章では翻訳技術、第Ⅲ章では翻訳についての私見を述べており、徐々に抽象度が高くなっていくような構造になっています。
序文より
本書は、捉えどころのない[言語の]営みを、理論と実務の両面から丁寧に言語化している。翻訳という領域に軸足を置きながらも、言葉を扱う仕事に通底する構造が描かれており、同じ言葉であっても、その置かれる条件によって働きが変わるという当たり前の事実に、あらためて立ち返らされる。その果てしない可能性に、静かに胸が躍る。翻訳に携わる人だけでなく、訳文に触れるすべての人に、その妙が伝わることを願う。(コピーライター 中新大地)
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序文(中新大地氏)
Ⅰ. 翻訳の実論
翻訳家になるには
翻訳家は何を翻訳しているか
翻訳会社に所属する
企画を持ち込む、自費出版する
クラウドソーシングの活用
自分で直接クライアントを見つける
結局、どの方法が良いか?
翻訳家に必要な勉強
翻訳家に必要な英語力
なぜ翻訳は難しいのか
専門性について
自分なりの翻訳観を持つ
翻訳を学ぶには
翻訳に必要な英語力について
勉強の大前提
日本語力を鍛えるには
日本語の語彙力
翻訳力を鍛えるには
翻訳の要素
直訳と意訳
異化翻訳と同化翻訳
スコポスと機能主義
翻案について
転写
省略
拡張
エキゾティズム
更新
ローカリゼーション
創造
翻訳の多様性を考える
機械翻訳の今とこれから
MTPEについて
MTPEが効率的でなくなるケース
全体のクオリティが下がる懸念
機械翻訳が苦手なこと
正確性の担保
MTPEとワークスロップ
オーガニックとなる人間の翻訳
AIとどう付き合うか
仕事としての翻訳
読解力
調査力
業界やコンテキストの理解
異文化や言葉の変質の理解
イデオロギーへの自覚
センスの言語化
翻訳における検閲
仕事人としての翻訳家
信頼の構築
イレギュラーの対応力
予測可能性という価値
アピールと客観視
プロフィールをどう作るか
セルフブランディング
自分の能力を正しく把握する
プロフェショナリズム
SNSとネットリテラシー
人材的付加価値
安定した収入を得る
継続的に仕事を得るには
適切な単価を求める
適切な単価を設定する
単価を上げるには
ただし金は第一の目的ではない
翻訳以外の仕事を持つ
パトロンワークの勧め
ストック収入を持つ
実務翻訳の流れ
要件の確認と見積もり
要件に沿った翻訳
再三のチェック
納品と申し送り
必要に応じてアフターフォロー
請求書の作成と料金の徴収など
Ⅱ. 翻訳の技論
翻訳のミクロとマクロ
訳文を考えるときのアプローチ
情報の順序を意識する
悪文について
文章の役割
美文を書こうとしてはならない
悪文を避けるには
感化のデザイン
カセット効果
誤訳とは何か
重訳の扱い
日本語の特徴
英語と比較する日本語の文構造
冗長になることを避ける
受動態の使用
ロジカルな文とは何か
論理構造の文化的差異
なぜ『起承転結』が駄目なのか
ディセルタシオンの構造
ディスコースマーカーの活用
納得の構造と翻訳への応用可能性
翻訳上の創意工夫
トランスクリエーション
ローカリゼーション
超訳
翻訳者の表現としての翻訳
疑似翻訳
自動翻訳ツールの活用
翻訳プロセスにおける機械翻訳
機械翻訳の利用判断スケール
MTPEを効率的に行うには
Ⅲ. 翻訳の私論
持論、表現、薫陶
仕事論とは何か
自律としての持論
仕事論や哲学は崇高であるべきか
哲学が合わないとき
翻訳論の発達と止揚
翻訳不可能論
『意味』の曖昧さ
語の意味のズレ
感化の働きの再現不可能性
原文を読むには原文を読むしかない
バリエーションとしての翻訳
完璧では有り得ない翻訳という営み
なぜ翻訳に価値がないのか
市場価値は需要や期待で決まる
完璧を求められる翻訳者たち
翻訳のブランディング不足
合成の誤謬をどう克服するか
翻訳者千差万別
翻訳に纏わる相反
翻訳の不合理
自負と自重
矜持と不遜
翻訳の文体
翻訳は『書かされる』執筆である
翻訳者は文体を持つべきである
文体の学習
ブランドとしての文体
翻訳と分かる文体の効能
翻訳の破壊と創造
原文の破壊
表現の多様性の破壊
語彙の破壊
翻訳の造語
カタカナへの置き換え
Ⅳ. 付録
後書き
引用一覧
参考文献
著者情報