こちらのアイテムは2024/9/8(日)開催・文学フリマ大阪12にて入手できます。
くわしくは文学フリマ大阪12公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

日々を彩る花

  • け-36 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • ひびをいろどるはな
  • たまきこう
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 64ページ
  • 500円
  • 2023/9/2(土)発行
  • 主人公の菫が、元旦に家を飛び出し、大晦日に帰ってくるまで、祝日に書いたあったりなかったりする架空の日記。
    エッセイ風の小説です。

    絵画が動いたり、人魚が出てきたりします。ファンタジー要素強めです。


    ※手製本のため、個体差があります。


    ■試し読み

    元日|プロローグ

     ひたひたと雨が降っていた。リビングとも寝室ともいえない部屋の、一番大きな窓が細く開いている。夜に包まれた雨の気配が、カーテンを巻き込むようにして、部屋のなかを満たしていた。あたらしい年が始まる騒がしさもここには届かない。

     窓枠に背をもたれ掛けて座り、膝のうえに手帳を置いて、これを書いている。隣にちいさなランタン型のライトを置いて、わたしは夜の底を漂っている。手帳の頁の隅に描かれた、スイートピーの花びらをそっとなぞる。「門出」を告げるその花は、今のわたしに丁度よい。

     ラジオが、明日も雨だと淡々と告げていた。深夜に聞くひとの声は子守唄のようにやさしく、毛布のようにやわらかく包み込んでくれる。

     朝、わたしはトランクをひとつ携えて、旅に出る。どこに行くかも決めていない。

     この手帳には、感じたこと考えたこと、経験したことしていないこと、そして頭のなかでしか起きていないこと、あらゆることを記していく。けれど、毎日じゃない。祝日の日だけ。日記、というものに憧れがあったけれど、あまりに内向きすぎるから、あなた宛ての手紙のような心持ちで、物語を綴るような気持ちで書いてゆく。 

     もうすぐ、朝が来る。

     雨は予報通りに止んでいない。細雨のなか、お気に入りの本と万年筆、少しの着替えを詰め込んだトランクを抱え、わたしは舞台の緞帳をすり抜けるように外へ飛び出してゆく。

     細やかな雨の滴が身体に纏わりつく。それを、花嫁のヴェールのように流した茶色の髪のうえに被り、引きずるように駅へと急ぐ。ときおり擦れ違う人々の顔は朗らかで明るい。二年参りの帰路か、これから向かうところか。首に巻いたマフラーに顔を埋めるようにして、深い息をひとつ、ふたつ溢した。顔を上げなおす。ブーツの踵を小気味よくアスファルトに叩きつけ、踊るように歩いてゆく。

     始発を見送り、次の電車の先頭車両。運転席の見える位置に座り、窓から外を眺める。

     これは、わたしの、なんでもない日々を彩る記録。


ログインしませんか?

「気になる!」ボタンをクリックすると気になる出店者を記録できます。
「気になる!」ボタンを使えるようにするにはログインしてください。

同じ出店者のアイテムもどうぞ

群青日々を彩る花花ノ神戸ロマネスク成就をちょうちょに結わえておしまい【無料配布】大正×喫茶店×内緒事合同誌 試し読みフライヤー

「気になる!」集計データをもとに表示しています。