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勇者降臨トラスティブレイド8

  • D-34 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • ゆうしゃこうりんとらすてぃぶれいど
  • 六神
  • 書籍|A5
  • 188ページ
  • 1,000円
  • 2016/10/02(日)発行
  • 結晶の塔が人類に奇病を降らせる。海里たちは事態を収めようと動くが、結晶の進化は止まらない。 機械知性体、人類、そして…ハル。 それぞれの思いが交錯する中、ついに結晶を分解できる武器を開発できたが…(完結)

    2016年10月全8巻完結

    「ふたつの知性体」

     日蝕事件。

     事態とそこから発生したさまざまな混乱は太陽を隠すほどの惨事として人類の記憶に焼きつく。

     あの日、世界が白く塗りつぶされたあと、人間は人の枠を壊されてしまう。

     それまで当たり前の日常を営んでいた者たちが輝く結晶の塊へと変質してしまった。一瞬にして生物から無機物へと変わった人の群れと、人を見失った町は沈黙するのみ。中心に出現した巨大な結晶柱だけが事態を睥睨していた。

     そして結晶柱が世界中の都市に現れてからの混乱は、いつまでたってもすぎない台風のようだった。

     各国政府は結晶の影響範囲を封鎖し行方不明者の捜索と調査に乗り出すが、柱に近づいた調査員が結晶化する事態が相次ぎ進まない。

     必ずしも結晶の町へ乗りこんだ者全員が結晶化するわけではないが、そのメカニズムは不明のまま。さらに影響の範囲が広すぎるのと人員不足により封鎖が完全ではなく、家族を探しに立ち入って結晶化する二次被害があとを絶たない。

     結晶柱の出現は、沿岸の都市部。それも人口が特に多い市街地に集中して起こったため、生産や流通も滞り気味になっていた。本社が結晶に飲みこまれたので地方の支店でどうにかして物流を回復させようと試みる企業も多かったが、なかなかうまくはいかない。

     それは流通大国と呼ばれる日本ではより深刻になる。食料品店やコンビニは棚の空きが目立ち、終日営業を掲げる大手チェーン店すらも商品の確保と従業員をそろえることができずに休業、あるいは時間制限付きの営業となった。

     被害の少ない地方都市は、最初の買い占めを乗りきったあと、翌週には品数は少なくとも通常営業に戻ることができた店舗も多かったが、夕飯に悩む主婦の顔はどこか暗い。上げた顔の先にある家の明かりがないのを見てまたうつむく。たまたま外出中、家族全員が被害に遭ったのか、唐突に連絡の取れなくなる家庭が増えた。

     人が消えた家は、当たり前だが誰も電気を点ける者がいないので暗い。町は日が暮れるとどこか闇が深くなり、夏至も過ぎて一日ごとに日没が早くなる中、追い立てられるようにして人は家路を急ぐ。

     内陸部の都市は直接的な被害がなかったので直後の混乱はあったが騒乱までにはいたらなかった。だが被害を受けた沿岸部の市民が恐慌状態で逃げこみ、興奮のままに店舗や人家に飛びこんで強盗まがいの犯罪や事故を起こす例は多数あったが。

     情報の寸断による焦燥、あるいは過剰反応した誰かの発言に振り回されて起こる暴動に警察や機動隊は右往左往する。結晶都市へ派遣された自衛隊は隊員の損耗を恐れ、外周を鉄条網や土嚢で囲うのが精いっぱいだった。

     わずかな期間で各都市の人口比率図が塗り替わるほど人が移動し、数が激変する。

     ただどこの自治体も、結晶化した、あるいは日蝕事件の前後で行方不明になった者を死亡として扱うかどうかの判断をつけかねていたが。

    「隊長の予想通りでしたね」

     声をかけられた久壇は土嚢袋を下ろして顔を上げる。盆を過ぎて風には時折、涼やかなものが混じるが日中の日差しは相変わらず刺すほどに強い。

    「世界中、大混乱ですよ」

     ヘルメットをかぶった頭から流れ落ちる汗をぬぐい、久壇は今日も晴れすぎている空を見上げて腰を伸ばす。

    「当たったところで何にもうれしくはねえな」

     久壇の部隊は鷹ノ巣山駐屯地の部隊と一緒に結晶都市の外周に立ち入り禁止の立て札や簡単な壁を作っている。作業は共同で行っているが、本来の指揮系統から外れて鷹ノ巣山に居候している状態は変わっていない。不可思議な話だが、久檀の部隊はいまだに書類上は空白となったままだった。もともと、久壇の部隊は再編成のために一度解散している。彼はその間の休暇を使って天条の仕事を手伝うことにし、部下は適当に遊んでおけと放り出したはずだが気がつけばこうなっている。

     上層部には許可さえあれば、余っている自分たちが結晶都市内へ入って生存者の捜索や内部の状況確認を行うと再三伝えてあるが今のところ返事はない。上層部としては、部隊をほぼ強制的に解散させ長期休暇と称して現場から外したはずの久壇部隊の元隊員たち、その八割が自主的に彼の元へ集い指示を待っている状況に仰天し、おいそれと命令が下せないのだろう。

    (だから、解散されたんだが)

     久壇は地味な土木作業を何の文句も言わずにこなしている隊員を振り返る。彼としては、特に猿山のボス気取りで自衛隊の中で反抗的にふるまっていたつもりはない。部下を集めて私設部隊化するつもりは皆無。むしろ武力を有している集団として規律は何よりも優先されるべきと考えている。

     だがしかし、栄転という名の左遷を繰り返すうちに、気づけば久壇の元には他の部隊で持てあまされた人材が送りこまれてくるようになった。上層部の考えは読めている。ここで部下を御せず耐えきれないなら自衛隊から去るか、あるいは個性派ぞろいの隊員の扱いに困って根を上げて泣きついてくるのを期待していたのだろう。

     意図は理解していたが、だからといって、できません辞めます、というのも業腹だったので久壇は知恵をしぼる。いろいろと、久壇としては知恵熱が出そうなほど脳をフル回転させた。だが、最終的に出した結論は、個性をとがらせている隊員たちを好きにやれ、の一言で放り出したのだ。

     命令に従うことが前提の自衛隊で自由にしろといわれたことで彼らは反抗すべき敵役を見失う。ぽかんとしていても災害は待ってくれない。負傷者と要救助者、瓦礫と濁流と雪崩とが迫ってくる。

     結果、彼らは自分たちで考えて動くようになった。自ら指揮系統を確立し、隊員同士で特技を把握。装備が足りなければ適正数を調べて発注する。

     久壇がやったのは、彼らの行動記録をさも事前に取り決めた作戦のように取り繕って上層部に提出しただけ。少々の矛盾は、現場の判断を優先した、で押し通した。

     鼻つまみ者だった彼らも、文句も言われず、逆に周囲からは結果を出していると言われれば悪い気はしない。

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