【石】と呼ばれる怪物と戦う、
異能の力を持つ討伐者たち。
竜のような大男・良互(りょうご)と、その相棒・桃の日常を
描いた和綴じファンタジー。
創作和綴じ本作家・蒔狐さんとのコラボ企画、【三題三色噺】にて執筆・製本した作品です。
⋯⋯【三題三色噺】とは⋯⋯
三つのお題(味わう、変身、交換)
で物語を執筆し、
三つの和の色(茜色、碧色、濃色)
を用いて装丁・和綴じ製本を行うコラボ企画。
自ら執筆・製本を手掛ける、2人の作家ならではの企画です。
☆文学フリマ京都10にて、初頒布。
☆当作品は、蒔狐さんの執筆・製本された「美味しいの裏側」との、
2冊合わせての頒布となります。(価格は、2冊セットで2000円です)
☆☆以下、試し読み☆☆
山向こうへと続く、清らかな川のように澄んだ空。数羽の鳥たちが軽やかに身を翻しながら飛び交い、美しく緩やかな曲線を描いていた。
「――見えた。あれだな」
静かな風に混じって、低く熱い、竜のような声が響く。遠くを見つめる琥珀色の瞳は、見えるもの全ての骨格を見透かす圧力を秘めている。
「! 急に止まらないで。私は、良互(りょうご)の背中で何も見えないんだけど⋯⋯」
「心の準備も無しに⋯⋯そんなに見たいのか? 今日の相手は、嬢ちゃんの苦手な“虫”だぞ」
竜のような、背の高い大男――良互の後ろを歩いていた少女が、突然壁のように立ちはだかった男の背中に盛大に顔をぶつけてしまったらしい。鼻の頭を指で撫でながら恨めしそうに眉をひそめていたが、畳み掛けるように返された男の言葉を受けて、一気に顔が青ざめる。
「無理無理無理無理⋯⋯!!」
「ちなみに、“芋虫”と“ムカデ”だな」
「言わなくていいからっ!!」
“動きはそこまで素早くはなさそうだ”⋯⋯と悠長に構える良互の横腹あたりの布地をわしづかみにし、少女は現実逃避のために目を固く閉じた。
「良互。あんまり桃(もも)を怖がらせてはダメよ」
「見たものをそのまま伝えただけですよ、濃菊(こぎく)様」
ふわり、と横から別の女性が現れるが、良互はやんわりと対応する。少女とは違い、女性は立場も上なのだろう。
「ふむ。⋯⋯まさに、“巨大な丸虫”と“彫刻のような脚を持つ虫”だ。――“虫”の姿を取る【石】は珍しい。ぜひサンプルを持ち帰ろう」
女性の足元でしゃがみ、地面の土を調べていた眼鏡の男が、にこやかでいて不敵に笑った。市民から聞いた情報と目の前の光景を照らし合わせ、服の土汚れを軽く手で払いながら――戦闘態勢を整えている。
「“虫”は毒を持つ者も多いけど、薬にもなる。――私も、じっくり解剖したいわ。なるべく傷付けずに捕獲しましょう」
「⋯⋯瀧尾呼(たきひこ)様も濃菊様も、本当にお強いですよね⋯⋯色々と」
あらゆる事情はあれど、手短に済ませようと敵を見据える上官二人を前にして、少女――桃も、戦う覚悟を決めざるを得なくなった。
☆☆