こちらのアイテムは2026/1/18(日)開催・文学フリマ京都10にて入手できます。
くわしくは文学フリマ京都10公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

〜花〜 宝物庫の魔女

  • 1F 第二展示場 | A-04 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • 〜はな〜 ほうもつこのまじょ
  • 織月なでこ
  • 書籍|B6
  • 94ページ
  • 1,000円
  • 2024/2/18(日)発行
  • 大事なら、しまっておきなさい。 大事なら、持っておきなさい。 ポケットの中でしわしわになった、パンジーの花びら。

    寝るときも・出掛けるときも一緒だった、うさぎのぬいぐるみ。砂の中から見つけた、桃色の小さな貝殻。

    誰かから、誰かへ。手渡され、確かな時や温もりを重ねてきたものたち。

    魔女たちはそれらを【宝物】と呼び、然るべき時が来るまで館で守っているという。

    ~花~ 『宝物庫の魔女』


    ☆以下、試し読み☆

    ①五文字しか書けない便箋(鷺草)
     【序章】
     夢には、際限がない。 繋がりも、終わりも、入り口も不鮮明――だけど。 あなたはずっと、呼ばれているのよ。 あなたしか開けない、扉の向こう側から。

    ◯ 「もしもし」
     「宝物庫の魔女よ。聞こえているわ。鳥のさえずりのような、かわいらしいお声ね」
     受話器の向こうから聞こえる、涼やかな少女の声。それは静寂の中でちりん、とゆるやかな一音を立てて消える、風鈴にも似ていた。

    「突然のお電話、ごめんなさい。あの……自分でも“おかしい”と思うのですが」
     「なぁに」
     「私は、誰かに【何か】を伝えなければならない気がするのです。けれど、伝えるべき相手や【要件】に、覚えがなくて……」

     “今・話している少女”が“何も覚えていない”ことが、今回の疑問を解く鍵だ。
     「――オーケー。時間のあるときに、館にいらっしゃい」
     膝の上にいる仔猫が、にゃみん、と鳴いた。 “大丈夫、彼女ならちゃんと選べるわ”と、魔女は仔猫の頭を撫でて笑っていた。

    ◯◯ 雨上がりの、少し冷え込む日の午後。
     “こちらでよろしいでしょうか”と、両手を前で丁寧に揃えた少女が、魔女の館にやってきた。黒いブーツの先が水溜まりに濡れて、きらりと光っていた。

    「あなたには、真っ白な――鷺草(さぎそう)の【便箋】を渡しましょう」
     便箋に描かれたその花は、驚くほどに白く、細い。 蝶々とはまた違うが、今にも何処かへ飛び立っていきそうなほどに――まるで“息をして・生きている”かのような錯覚を覚える。

    「私は今まで、手紙を書いたことがありません」
     「何も難しくないわ。思っていることを、素直に言葉にするだけだもの。今みたいに」 「ですが……」

    言葉に詰まることはあっても、決して自分の思いを偽ったりはしない。そんな少女を微笑ましそうに見つめる魔女は、更にこう付け加えた。
    「ひとつ言うと、この【便箋】は、五文字しか書けないから」
     「……!」
     「書き間違えたときのために、ふたつ渡しておくわね」


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