覚めない夢の中で、「私」と「僕」とが問答を続ける。理想とは何なのか、世界とはどの様にあるべきなのか、どんな世界を望むのか。そして何より、「私」と「僕」という一人称でしか表されない二人は、何者であるのか。世界は果てしない入れ子の形なのかもしれない、その考えに取り憑かれ、眠りに就いた人物とは。
・おまけ冊子が付きます
――『理想』と云う言葉は、随分と矛盾して居るね
――如何してだい
――何故って、『理』を『想う』のだろう?可笑しい事此の上無いものだよ
――別に『想』ったって、良いでは無いのかい
――些(ちっ)とも良くは無かろうよ。此の『世界』の決まり事を『想』って居るのだろう?可笑しい、可笑しいよ
――『君』の言う『世界』とは何だい?宇宙と云う事かい?
――そう云った次元のものでは無いのだよ。『世界』とはね、先ずは『己』自身さ
――『己』自身が『世界』だって?『君』、其れは傲慢にも過ぎるのでは無いのかい
――其れは『君』が『世界』という言葉から、『何か』視覚的な比喩を得ようと試みて居るからに他ならないよ。良いかい、『世界』とは『己』と云う『何か』を取り巻く、『己』を含んだ全てと云う『何か』さ。『己』には限界が有るのだから、全てだとか、『何か』だとか、そんな持って回った様な言い方でしか、其れを表せない。『己』自身は世界を形作る一部分だけれど、同時に『己』は諸々の部分に形作られる部分の総和という、一つの『世界』なのだよ
――如何も解せないね。もう一寸(ちょっと)、詳しく説明をしては呉れないかい
――然うだね、其れじゃあ幾らか、喩え話をしようじゃないか。若しも『君』が『私』の『世界』なら、『私』は『君』の一部だ。細胞だ。血だ。骨だ。『私』は、『私』自身が『何か』の部分で在ると云う事になぞ考え至らない。至った処で、部分たる『私』を辞める事など出来る筈も無い。『私』は『君』を認識し得ない。『君』は『私』にとって、絶対的な『何か』で在り続ける。死んでも其れは免れない。何故かと言えば、死すら『世界』の『理』なのだからね。『君』の定める『理』と云う名の綱紀無くしては、『私』は呼吸すら儘為らぬのだよ。そして『私』は、そんな『何か』が怖いのだ。その、『世界』と其れを支える『理』との、どちらともつかないけれど、其れで居て『世界』だけよりも『理』だけよりも強固に思われる『何か』がね。其れは『己』自身と云う『世界』にすら潜んで居るのだよ
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