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その瞳からこぼれた光

  • き-07 (小説|短編・掌編・ショートショート)
  • そのひとみからこぼれたひかり
  • 諸星正外
  • 89ページ
  • 500円

  • ひとりで過ごしたい。つかの間の安息が欲しい。誰にも心を乱されたくないー-。
    さながら世を捨てた旅人のような心持ちで、真司は実家から十キロほど離れたところにある叔母所有の古家まで原付で向かった。アコースティック・ギターを背に担いで。
     (その瞳からこぼれた光)

     小夜子がヴァーチャルでアイドルとなったのは、ちょうど去年の春、二十八歳のときだ。「子供の時からずっとアイドルに憧れていた」というドリーミーな理由はそこにない。小夜子はただ、自分の財布の中身を豊かにしたかっただけだ。
    (ガラスの靴を脱ぎ捨てろ)

     どうしようもない運命や過去、矛盾を抱えながら、それでも「今」を頑張って生きていく人たちを描いた短編集。

     【収録】
    ①ツギハギ
    ②その瞳からこぼれた光
    ③ガラスの靴を脱ぎ捨てろ 
     【抜粋①】(『ツギハギ』より)
     「景色以外だと、あたし、クジラが好きなんだ。でも、それはただのクジラじゃない。52ヘルツで鳴くクジラ。他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一番孤独なクジラがいたらしいの」
    あたし、そのクジラと友達になってみたいんだ、と彩香は言った。その子は絶対に、あたしの知らないことをたくさん知ってるはずだから、と。

      【抜粋②】(『その瞳からこぼれた光』より)  
    わかってない。「音楽」というものを、この人は何もわかってない。叔母さんも結局は、俺の両親と同じか。  売上だとか人気だとか、そんな安っぽい尺度で、真司は音楽をやっているわけじゃない。記録ではなく、誰かの記憶に残る曲を作りたい。自分の中に眠る「好きだ」という気持ちを音にして奏でたい。ただそれだけの思いで活動をしているというのに、両親は全くもって理解を示しちゃくれなかった。やれ変わり者だの、どうけ才能がないのだからやめておけ、などと罵り、まるで真司を腫物のようにして扱う。  

    【抜粋③】(『ガラスの靴を脱ぎ捨てろ』より)  
     「おはれーら……。初めましての人は初めまして……。今日は、えーえすえむあーる? っていうのをやってみようと思いまーす……。ふー、ふー、はぁ……」  
    マイクに喘ぐような吐息を這わせるだけの空虚な配信まで行った。しかしこれは「やけにリアル」だったため視聴者からの評判はなかなかどうして良く、夏頃になるとコミュニティの登録者は二十七人から三百人弱にまで増えていた。男って本当に解せない。








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