はなり亭で会いましょうシリーズの番外編読み切り作
主人公・重森絢子と渡辺涼花、宮田樹希の3人で、秋に開催された日本酒と料理のペアリングを楽しめるイベント「サケスプリング」に行っていたら? という設定の小話。
3人の微妙な関係性と、会場でお酒を楽しむ様子をお届けします。
日本酒女子と小悪魔男子のSAKE Spring
地下鉄東山駅を出て、京都勧業会館みやこめっせを目指す道行きは、紅葉シーズン真っ盛り。ひんやりとした空気感だが日差しもあって、絶好のお出かけ日和になっていた。
(こんな日に朝からお酒を飲みに行くなんて、ちょっと背徳感あるかも……?)
重森絢子は今日、日本酒の試飲やお酒に合うフードメニューが楽しめる「SAKE Spring」に参加するべく「みやこめっせ」を目指していた。秋なのにスプリングとはこれ如何に? という感じではあるが、そういうイベント名であり、前回は七月に開催されている。
平安神宮の大鳥居が見え、京都国立近代美術館の横を過ぎると、府立図書館のそばの公園がある。絢子はここで待ち合わせ相手と合流予定だ。
本日の同行者となる大学生たちは先に着いていたらしく、絢子を待っている様子が見えた。絢子の姿に気づいたらしい向こうが手を振ってくれている。
渡辺涼花のSAKE Spring
それは涼花がいつものように「はなり亭」でアルバイトをしていた日のことだった。時折、一人飲みに来てくれる女性客・重森絢子をカウンターの席に通し、彼女の日本酒好きを考慮しながら接客していると、店主の御厨喜孝と会話がはずんでいる様子。何の話をしているのかと窺えば、どうやらお酒が試飲できるイベントの話で盛り上がっているようだった。
「僕もこういうイベントで試飲したり、料理との相性見たりとかしたいんやけど、夜に店開けれんくなるさかい、行かれへんのですわ」
「確かに……お酒を試飲した後でお店の仕事ってなると大変ですよね。かといって週末にお店を休むのも悩ましいですし」
二人の話によると、来月「みやこめっせ」にて日本酒の試飲や料理とのペアリングが楽しめるというイベント、SAKE Springが開催されるらしい。
二十歳の誕生日を迎え、お酒が飲めるようになってからというもの、涼花も少しずつ日本酒の味を楽しんでいるが、飲み比べできる機会はなかなかない。こういったイベントに行けば、色々なお酒を少しずつ試せて、もっと日本酒を知る機会になりそうだ。
宮田樹希のSAKE Spring
「それからこれも……」
宮田樹希が謝罪がてら用意した食べ物のお礼だと言ってチーズケーキを買い与えてくれた彼女は、さらにもう一つのお土産を差し出してきた。
それは今日のイベントでお酒の試飲用に配られていたグラス。二人の同行者と違い、試飲なしのチケットで参加している自分だけが入場時に手に入れられなかったもの。持ち帰り用にお酒を日本買ったらもらえたので、良ければ使ってほしいと言って彼女は差し出してきたのだ。
(なんで、そこまで……)
樹希はなんとなくバツが悪く感じた。
正直、自分はこの人にそこまでしてもらえるような立場ではない。なんとなく気に食わなくて、いつもそっけない態度を取っていると自覚しているし、今日は途中で勝手に別行動を取るなど印象が良くないはずだ。それでも彼女は、自分にまで親切にしてくれる。
(これがオトナの余裕? センパイが憧れる理由?)
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