この国の中枢は、八つの機関から成り立っている。
法務を司る第一機関、外交を司る第二機関、財務を司る第三機関、そして、公安を司る第四機関というように。
そして近年、秘密裏に発足したと囁かれているのが、公には存在しない九番目の組織――粛清を司るといわれる第九機関だ。
あらゆる違法行為――殺人さえも、第九機関が“執行”すれば、それは“超法規的措置”の扱いになる。
北方のスラムに生きていた幼い兄弟は、凍える冬の日、《勧誘人》を名乗る男のテストを受け、《第九機関》に導かれる。
幾重も死線をくぐる訓練を生き抜き、兄は指揮官の役割を果たす《調整人》に、弟はそれを守る《護衛人》となる。
だが――
――こんなかたちで、愛してごめん。
弟にとって、兄は世界の全てだった。
世界で信じられる存在が兄しかいない弟にとって、心を注げるのも、ただひとり、兄だけだった。
両親、友人、先輩、恋人……成長するにつれて出会い、芽生え、宛先が枝分かれしていくべき感情を、弟は全て、兄へと向けた。
敬愛も、親愛も、情愛も……性愛も。
愛しているのだと兄に告げた言葉は、神に赦しを乞う告解に等しかった。
――守るためなら、生きられる。
兄にとって、弟は世界の全てだった。
両親をなくし、故郷をなくし、残されたのは、たったひとりの弟だけ。
兄にとって、弟を守ることは、幸せを守ることだった。
兄は微笑み続けた。弟のため。世界に抗うため。
弟だけが、兄の生きる理由だった。
「お前が愛したいように、俺を愛してくれ」
兄は、弟の心の全てを受け容れた。それが兄の愛し方だった。
互いが生きる理由だった兄弟の、 守り守られる罪と赦しの物語。
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《第九機関》シリーズ前作「FLUTTER IN DAWN」のスピンオフです。
8歳と5歳から、21歳と18歳まで、クロセ兄弟の、ふたりで生きた時間を書きました。
(スピンオフですが、単体でもお楽しみいただけます)
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【試し読み】
https://kakuyomu.jp/works/16817139557014159979