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神様の立候補 他一編

  • お-07 (小説|エンタメ・大衆小説)
  • かみさまのりっこうほ
  • 栗林 元
  • 書籍|A5
  • 121ページ
  • 1,000円
  • 2020/3/2(月)発行
  • 「神様の立候補」
     スタジオ内は、しん、と静まりかえっていた。テストとはいえ収録中であるから静かなのは当然だが、西元にはスタッフが唖然として静まりかえっているように思えた。 (俺、関係ないもんね、ついてきただけだもんね)と、いくら自分に言い聞かせても、おそらく局の人間からは、信者の選対委員か何かに見えているのだろう。 西元は、身を固くしてモニターを見続けた。両頬に血が集まり、赤面していくのがわかる。 (穴があったら入りたい、とはこういう気分なんだろう)と思った。 くめの話は終わろうとしていた。ディレクターが指でカウントダウンを始めた。 「何卒、神の代理人、杉浦くめに、清き一票をお願いいたします」 そう言って、くめが頭を下げた。 (あれ、まだ五秒以上あるぞ。)と思ったとたん、くめが頭を上げた。手は合掌をしている。その手に力を込めると、カメラに向かい、「ええい!」と裂ぱくの気合を発した。
     平成二年の第三十九回の衆議院総選挙を舞台にした作品。主人公・西本は地方新聞・東海新聞の専属広告会社の営業。彼に下された使命は、泡沫候補の新聞用選挙広告を法定回数五回分を全て東海新聞の扱いで獲得すること。選挙広告の扱い件数は新聞の信頼度を計るバロメーター、他紙の専属広告会社も黙ってはいない。さらに問題が一つ。その候補者は、「龍神様のお告げで立候補を決意した」というおばあちゃんだったのだ。西本は無事に扱いを獲得できるのか? そんな新聞広告の内側をユーモアたっぷりに描いた作品。
     この作品は、平成三年三月の「第二回ビジネスストーリー大賞」(テレビ東京主催・日本経済新聞社後援)で佳作入選した小説に加筆したもので、今回が初公開。

    「ヒーローで行こう!」
     マクドナルドの店の前に行くと、窓側の席から携帯に必死で何かを打ち込んでいる娘が見えた。見たところまだ高校生ぐらいだ。 その娘の前でいったんサンダーボルトを停車させた。
     怪訝そうに顔を上げた娘が、久利を見て目を見開いた。口の形から、「ブラックライダー!」と言ったのがわかる。久利は「ビンゴ」とつぶやいた。まちがいなく連絡員の一人だ。店内の人間が、一斉にこちらを見た。
     久利は背筋を伸ばすと、右手を上げ、軽く挨拶をした。 そして、ヘルメットの中でもう一度小さく、しかし、はっきりとつぶやいた。
    「ライダー見参!」
     店内がどよめいている気配が伝わってきた。何人かの客が、ライダーを見ようと中腰で席から立ち上がった。
    「ヒーローで行こう」は平成十四年の作品。ツイッター登場の四年前、地方都市に住む四人のオタク中年が、ひょんなきっかけから正義の味方をすることになる物語。アメリカンコミックスのヒーロー誕生譚へのオマージュにもなっている。
     作者の得意なユーモア小説を二篇まとめた作品集

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