「でねでね、そしたらショウくん何て言ったと思う~?」
春希は、六畳一間の和室のど真ん中に鎮座している万年床の上にあぐらをかくと、テンションも高らかに目の前の男に話し掛けた。
「わ、ごめん! やっぱ恥ずかしくて言えないや」
「へえへえ」
男、前城はノートパソコンの画面から視線を外すことなく、ぽちりぽちりと緩やかにキーボードに指を走らせながらあからさまに適当な返事をした。
「うわ、超興味なさそう」
「当たり前だろ。ガキが乳繰り合ってる話なんざどうでもいいよ」
春希は口を尖らせると、あぐらをかいていた両足を布団の上に投げ出した。
「なんだよー! せっかく大学が夏休みだから、こうしておっさんの家に遊びに来てやってるんじゃん」
「俺はお前みたく暇じゃねえんだよ。見て理解しろ」
「いいじゃん、昔みたいに遊んでよ」
「あのな。あん時は俺も大学出た後就職せずにプータローやってたし、お隣さんのよしみってことでお前の面倒見てたけどな。どう考えても今とは状況が違うだろ」
前城が顔を上げ、初めて春希の顔を見た。
先日成人したばかりの春希の顔は、まだ少しあどけなさを残しつつも、確実に大人へと成長していた。こないだまで哺乳瓶吸ってた奴がなぁ…と、前城はその三白眼を伏せてなんともいえない気持ちに浸る。
窓の外で蝉の声が爆ぜている。