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掌編小説 魔法の速度

  • 6F | う-12 (小説|短編・掌編・ショートショート)
  • まほうのそくど
  • 蓮井 遼
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 150ページ
  • 400円
  • https://storyoftruth.base.sho…
  • 2018/4/24(火)発行

  • 人を食べてきた豹と長く生きたあまり全てがどうでもよくなった魔女との連作物語『魔女と豹シリーズ』を始め、

    慣れぬ場所で格闘家の姿から勇気を奮い立たせる会社員「風を掻き分けて」

    火山に棲み自分の記録をマグマ盤に刻む竜の話「火山に棲む竜」

    など、生きることの孤独や淋しさと向き合ってくれる存在がいることの恵みや嬉しさを書いた掌編小説集です。

    掌編小説集「魔法の速度」


    『魔女と豹シリーズ』から掌編 幕間 Ⅰ 全文試し読み。 他の話も気になる方はURLからお読みできますので、どうぞ。

     掌編 「幕間 Ⅰ 」

     月夜の間を豹は駆けていた。この先がどこかは彼の知ることではない、ただ、彼は今のところで、体と魂を落ち着かせることはできなく、月が前方に浮かんでいると、彼はその方へ向かいたくなったのである。彼が走っている間は、彼の渇望していた飢えも疲れも気にならなくなっていて、駆けている状態がまた彼を駆けさせてくれた。彼はその時、考えることはできず、一種の恍惚というか既に彼自身の意識が境界から外れようとしていて、心地よかった。
     しばらく走っても豹は月のあとに近づくこともできなかった。しかし、豹は月が逃げている、動いているとは思わなかった。彼には月はあまりに遠くにあって、俺が走り続けない限り、辿り着くことはとても難しいのだろうと思ったのであった。
     さらに走り続けているなかで、豹は走っている自分を意識し始めた。
    「ああ、俺はこの草原の上に立って走っているが、俺は止まることができないのだ。立ち止まって動かなくなって、俺が他の動くもののなかの景色の一部になることもできないのだ。俺はここに標となってくれる草原とは違うものなのだ。俺はかつて、人間達が作り上げただろう建築の間を走ったこともあるし、洞窟や滝の抜け道を走ったこともある。依然として、俺の跡に別の足跡を見つけることもある。しかし、その足跡を残した者が足跡とともに止まることはなく、ただの一度も俺はいる間に現れることはないのだ。この足跡はつまり俺の前にあり、後ろにあるもの、それは俺に替るべき足跡というものであり、俺の駆け足はいずれ立ち替わるものなのだ」
    「そのために俺は走っているというのか、立ち替わるために。馬鹿な、今をまさしく俺が駆けているのは替わるためではない、あの月の見える方へ進んでいる、ただそれだけの目的なのだ。その向こうになにがあるということよりも既に走ってしまうという俺の仕掛け、これ自体が俺の駆けている理由になるのだろう」
     豹は自分を認識し、それが取り替わるものと認めておきながら、そのために自分自体が駆けていることではないことを実感していた。駆けている中で、木々を沢山通り抜け、川も横切ることがある、そこで流れがきつい場合は迂回をして、或いは人間の作った橋を利用してただ月の見えるところへ向かって走っていた。ただ、流石に長い時間走り続けたら休む必要があるようで、疲れが見えてきたときに丁度村の集落が近くにあったので、そこでまた獲物を探して栄養を満たそうと試みることにした。


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