「ねぇ、茉莉さん。あの場所に何があるか、茉莉さんは知っていますか?」
市香さんはそう言って、横断歩道の向こう側を指さした。ここからだと、小さな森のようにも見える謎の場所。通学中に毎日目にするその場所の正体を、わたしは知ろうとしないまま三年が経とうとしていた。
「さぁ……いつも気になってはいましたけれど、訪れたことはなくって」
「掃除、僕にも手伝わせてよ! 蔵の中見てみたいって前から言ってたじゃないか!」
「そうは言ってもなぁ……勇磨には危ない物もあるかもしれんからなぁ……」
両手を振り回して駄々をこねる僕に、じいちゃんは困ったように頭を掻いた。
お盆休みの恒例行事になっている、じいちゃんの蔵の掃除。蔵には社会の教科書で見るような昔のものがいっぱい詰まっているって聞いたから、僕は見せてもらえるのを首を長くして待っていたんだ。
「六年生のお兄さんになったらね」って約束だったから、今年こそは参加できると楽しみにしていたのに。いつもは途中で寝てしまうじいちゃん家までの移動中も、今回ばかりは目が冴えて眠れなかったというのに。じいちゃんも父さんも、みんな今になってダメだと言い出すなんてひどい。
「じゃああんたはほら、これに行ってきなさい」
母さんはそう言って、ちゃぶ台に乗っているチラシを手渡した。いかにも町内で作ったようなチラシには、「タイムスリップ⁉ 昔の学校を探検しよう!」と大きな文字で書かれている。飛び入り参加もオッケーらしい。なんだかうまいことヤッカイバライされているみたいで気に入らないけど、古い学校も面白そうだからよしとしよう。
とある夏の昼下がり。戦争が終わってから、俺は初めて故郷を訪れた。あんなことがあったのに、ここは何一つ変わっていないようだった。どこまでも青々と高い空。湿度の低い風に靡く水田の稲。昔は少し怖かった、境内の傍にある小さな森。入道雲のように茂った木の葉がざわざわと揺れる様子は何かの囁きのようで、子供の目には神々しいような、不気味なような、そんな風に映った。古いしきたりや言い伝えが生きている田舎だからこそ、一層。
今日は、俺が戦地に赴いている間に亡くなった妻の墓参りに来た。終戦から時が経ち、ようやく気持ちに整理がつくようになったのだ。それでも、まだ受け入れられない現実や消えない記憶に苦しめられる日はあるけれど。こちらのブースもいかがですか? (β)
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