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封印ロンリネス

  • D-20 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • ふういんろんりねす
  • 永坂暖日
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 148ページ
  • 600円
  • https://kakuyomu.jp/works/168…
  • 2023/5/21(日)発行
  • 読み切り

     かつて世の中を混乱に陥れたという〈災いの元〉。リアノスが暮らす小さな里ティサに〈災いの元〉は封印役によって封じられていた。封印役は百年ごとに代替わりし、今はリアノスの幼なじみ・アミシャが務めている。その封印役は代替わりをするまで眠りにつくのだが、十年目のある日、アミシャが目を覚ました。そして彼女と共に、封印されていた〈災いの元〉も目覚めてしまう。しかしそれは、あどけない少年の姿をしていた。
     リアノスは戸惑いながらも、ナートと名乗る少年との日々が始まるのだが……。
     人間の果てなき欲望に翻弄されながら、ささやかな希望を探し求めるファンタジー。
     カクヨムでも公開しています。本書はweb公開版を加筆修正したものです。web未公開の外伝も収録。
     以下、試し読みです。

     
     芽吹いたばかりの若葉がみずみずしく輝くさまは、スクル神がまるで言祝いでおられるようではないか。この世界を創りたもうた神の右目から注ぐ光を浴び、あの木々の隧道を通る者は、祝福されていると感じたことだろう。
      その先に広がる青空と、瀟洒でも壮麗でもないものの荘厳で、森の奥にあるとは思えない巨大な神殿を目の当たりにして、己が身に注ぐ祝福を確信したに違いない。
      だが同時に、不安にも襲われたはず。
      神殿の周囲には、それまでの道のりと同じく――あるいはそれ以上にたくさんの人間が集まっている。それを見て、自分の番はいつになるのか、と。
      焦ることはない。待っていれば、いずれ必ず順番は巡ってくる。ここへ辿り着き、じっと己の番を待てる者だけが、遠路はるばる旅した甲斐を得られるのだ。あの神殿におわすのは、スクル神の化身のごとき力をお持ちの方なのだから。
      ここまで来ながら、いつとも知れぬものなど待てぬと駄々をこねてよいのは、相応のお布施を持参した者だけ。お布施の数と量で、順番はいくらか繰り上がる。
      それも知らずに我が儘を通そうとするのなら、道は二つ。神殿を守る守護者達を倒して、奥に在す方にお目通りするか、守護者達に倒されるか。もっとも、前者の例は未だかつてないという話。
      それでもなお、あの屈強きわまりない者達に果敢に挑もうというのなら、それも結構。順番を待つ者達の暇潰しにはなろう。
      さあ、お布施がないならおとなしく待つか、諦めて帰るか、悪足掻きをするか――好きに選ぶがいい。

       ●

     
     そこの空気は澱んでいた。
     入れ替わり立ち替わり人が訪れ、その吐いた言葉がこの場に留まり、いつまでも漂って出ていかないからだ。
      それはやがて澱となり、まとわりついて、肌を通して染み込んでくる。薄い皮膚の下を流れる血に溶け込み、体中をくまなく巡って、すみずみまで行き渡らせるのだ。
      きっとそうやって『力』は少しずつ強くなっていったのだろう、と彼は思っていた。
      いいことなのだ、たぶん。
      皆が彼にそれを望んでいるのだ。より強く望まれ、より強く求められる姿に、皆がしてくれるのだ。
      皆がそうしてくれたおかげで、今や神殿の主(あるじ)である。スクル神の化身だ、という者もいる。自分がそんなたいそうな神様とはちっとも思えないけれど、人々は崇め、かしずき、拝む。
      いいことなのだ、きっと。
      たとえ空を、雲を、星を、月を、日の光を、雨や風の音を――スクル神がこの世にもたらし、神々の営みによって生まれるそれらを最後に感じたのがいつなのか、もはや思い出せなくなってしまっていても。身の丈に合わない座り心地の悪い椅子から、眠る時以外はほとんど離れることがなくなっていても。
      皆がそれを望み、彼には『力』があるのだから。
      左右には常に、武器を携えた者が控えている。時々入れ替わっているようだが、その顔にも名にも、とっくに興味を失っていた。話しかけても、それよりも訪う者の話を、と返されるだけだからだ。
     「次の者です」
      前の者が去れば、また次の者が、幾重にもなる帳の向こうから現れる。彼の前に進み出て額ずき、許しを得てその手を取ると、いずれ澱となる言葉を口にする。
      どうせ、右の耳から入って左から出て行くだけ。真摯に耳を傾けなくとも、それらしいふりをしておけばいい。前の者と同じように。
     「お目にかかれて光栄にございます」
      二人分の声に、彼はわずかに眉を動かした。
      緊張に震え、あるいは浮かれ、あるいは舞い上がり、あるいは恐れおののく声は、数え切れないほど耳を通り抜けていった。
      だが、このようにどこか険しく厳しい声は、久しく聞いていない。それも、同時に二人分。
     「お願いがございます。ですがその前に一つ、伺いたいこともございます。よろしいでしょうか」
      次に口を開いたのは、年上とおぼしき方だった。年下の方は、黙ってこちらを見ている。二人は、似た顔立ちをしていた。
      兄らしき男は慇懃な物言いだが、口調は強かった。目つきも。
      左右に控える者達が動き出そうとするのを、彼は手を上げて制した。
     「……話を聞くのが役目だからね。いいよ」
     「ありがたく存じます」
      恭しく頭を下げるその男の話を、いつもと違ってしっかりと聞こうと思ったのは、彼らが他の者達と違っていたからだ。
      澱となる言葉ではなく、違う何か――決意のようなものを、二人が携えているように思えたからだ。

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