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初音には遠く 〜『まなざし』拾遺話集〜

  • B-15〜16 (小説|ファンタジー・幻想文学)→配置図(eventmesh)
  • はつねにはとおく まなざし しゅういわしゅう
  • 野間みつね
  • 書籍|A5
  • 100ページ
  • 450円
  • 2005/08/11(木)発行

  • 哀しいけど、時が経てば、人の心は変わるんだよ。今は大好きだと思う相手が、十年後には嫌いになっているかもしれない。嫌いにならなくても、違う相手のことを、もっともっと好きになっているかもしれない。


     慶応三年元日早々、参謀の伊東さんと組長の永倉さん・斎藤さんの三人が、島原へ出掛けたまま、門限を過ぎても戻ってこなかった。無断の門限破りは、新選組の内規に照らせば、幹部の場合、理由の如何いかんを問わず切腹。三人は切腹になるのか──中には、一昨年の山南さんの処断を思い出してしまう者もいる。私、沖田総司も、そのひとりだ……。

     基本的には、野間みつねの“私家版・土方歳三”とも言うべき『まなざし』の本編では採り上げなかった出来事を描いた、或いは本編での出来事を別の当事者の目から見る形で描いた短編を収録した拾遺話集。男色絡みの展開も含まれるので、苦手な方は御遠慮を。

     収録作品5本は、ウェブ上で先に公開済みながら、紙媒体に移すに当たり加筆修正。

     === 以下抜粋 ===

    「……なら、あんたが付いていってくれ。俺は御免だ。……あの女は苦手なんだ」
    「私だって苦手だよ」
     平間はまたぞろ苦笑した。
    「新見さんの方が、あの女のあしらいが巧いじゃないか。……それに、新見さんなら、若い隊士にも睨みが利くだろ」
     それは確かだったので、俺は舌打ちしながら腰を上げた。
    「……馬鹿者が近付かんように、それとなく見張っておけばいいんだろ」
    「宜しくな」
    「今度の飲みしろは持ってもらうからな」
    「わかってるよ」
     気は進まなかったが、仕方がない。俺は身仕舞を済ませると、二刀を差し落とし、壬生寺へ出掛けた。門をくぐる所では仕方ないにせよ、境内にいるところを他の隊士共から見られて相撲見物に来たと思われるのはしゃくだったので、お梅の姿を見付けると、見失わない程度に離れた場所で建物の柱に軽く背中を預け、不機嫌顔で腕組みをして佇んだ。
     なのに、そういう時に限って、面倒というか苦手な相手に見付かるように出来ているらしい。
    「あれっ、新見さん、いらっしゃってたんですか」
    「声をかけてくだされば良かったのに──今からでも、何処かお席を用意しましょうか」
     ……藤堂平助も、沖田総司も、とにかく、近藤に付いてきた若い連中の屈託のなさは、苦手だった。……俺は、自分の睨みがまるで利かない、お梅だの藤堂だの沖田だのといった、他人に対して物怖じすることなくひょいと懐に入ってくるような連中が、大の苦手なのだ。
     ただ無遠慮であるなら、怒鳴りつければいいだけだ。だが、お梅も含めてこいつらに共通しているのは、まるで物怖じしないくせに決して無神経なわけではなく、為に他人から憎まれにくいというところだった。
     俺は飛び切りの不機嫌顔でかぶりを振った。
    「席など要らん。別に男共の裸なぞ見に来たわけではない」
    「じゃあ、誰を……って、野暮でしたか。失礼しました」
     妙に照れたような笑声しょうせいを洩らして、藤堂はひょいと頭を下げた。そして、「何か用があったらいつでも声かけてくださいね、俺達、あの辺にいますから」と言い残し、沖田を促しながら存外あっさりと立ち去っていった。
     ……って、おい、「あの辺」というのが、どうしてお梅の近くなんだ。
     お梅の近くで楽しそうに立ち話を始めたふたりは、何故か時々俺に向かって笑顔で手を振りながら、物を知らない風情の男の観客や若い隊士達がたまに彼女に近寄ろうとすると、さりげなく間に入って追い払っていた。……俺は、俺が何の為に来ているのかを奴らに見透かされているような気がして気味が悪かったが、何処かでホッとしてもいた。下手に俺があれと同じことをやれば、芹沢先生の姿が見えないだけに、事情を知っている隊士共があらぬ勘繰りをしないとも限らない。お梅からなるべく離れた所にいようと此処に立っているのも、そういうたぐいの誤解だけは勘弁してほしいからだ。
     結局、相撲の間じゅう、藤堂と沖田のふたりがお梅の近くでの〝虫い〟を続け、俺は、一体何をしに行ったのやら、単にそれを遠目で眺めるだけに終わった。
     しかし、お梅は、俺が来ていたことに気付いていたらしい。興行がはねると、そそくさと帰ろうとする俺を目敏く見付け、さらりと隣に寄り付いてきた。
    「おおきに。新見はんが遠くから睨んではったから、悪い虫がちぃとも寄り付かへんかったわ」
    「俺は何もしてはおらん。……離れろ。人が見る」
    「うちは気にせぇへんのに。……ぱぁっと飲みに行かへん? 沖田はんと藤堂はんも一緒や。今日のお礼やから、うちのおごり」
    「──冗談も大概にしろ」
     俺は覚えず顔を引き攣らせた。
     この俺が、女と飲みに行くかだと? 沖田や藤堂と一緒に? しかも女の奢りで飲むだと?
     何と馬鹿なことを言うのか、この女は。
    「そんな恥ずかしい真似が出来るか」
    「ほな、お勘定は表向き、新見はんがすればええやろ。……あのな、沖田はんと藤堂はんには、新見はんの奢りや、言うてあるんよ。芹沢先生の気に入りの女に近付く悪い虫を追っ払ってくれたお礼や、いうて」
    「──おいっ。もう奴らにそんな話をしてるのかっ」
    「そやないと、新見はん、来てくれはらへんやろ。……頭、使うたもん勝ちや」
     お梅は、ふふふと小声で笑った。……うう、こ、この、女狸めだぬきめが。

         ───「死神」より

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