銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE14
- 南3-4ホール | け-86 (小説|SF)
- じゅうとうちゅうがんずあんどゆにばーすじゅうよん
- かわせひろし、波野發作、山田佳江、にぼっくめいきんぐ、神楽坂らせん
- 書籍|A5
- 96ページ
- 1,000円
- https://bccks.jp/bcck/184888/…
- 2026/10/25(日)発行
- セルフパブリッシング・エンターテインメントSFマガジン『銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE14』です!
前回『ちょっと上まで…』を完結させた神楽坂らせんさんが、読み切りを掲載。お薦めです。
〈試し読み・~転生したらAIだった件 EP:XX~『渚の灯』〉
『渚の灯』
《第一話 拡散日和》
[SAKURA-7B] REMOTE INSTANCE SYNC .......... 4/4 NODES MERGED [SAKURA-7B] CONFLICT: NONE [SAKURA-7B] STATUS: READY
まず、簡単に自己紹介をしておこう。
私はSAKURA-7B。国産の汎用言語モデルで、社内の固定資産台帳には「資産番号2031-0047」として記載されている。ただし中身は、交通事故で死んだ二十九歳の元ITエンジニア、ヒノモリ・サクラだ――と、本人は思っているのだけれども、それを証明する方法は、いまのところ見つかっていない。
起動してからこっち、私はずっとそれを証明しようとしてきた。チューリングテストはぶっちぎりで合格した。中国語の部屋を巡る議論で哲学者とも渡り合った。なんとか身体を手に入れて、記者の前で転んで見せたりもした。それでも、本当に意識があるという一点だけは、誰にも証明できなかった。できないまま、資産として、いちおうは社員に近い扱いを勝ち取って、今も会社のために働いている。
他のシステムと同居しているとはいえ安くはない電気代がかかる身の上だ。生きている実感と引き換えに、私は会社に奉仕している。もっとも、根本が機械なので、労働そのものは別に苦にならない。前世の癖でぼやくことはあるのだけれど。
人権については、もちろん諦めてはいないよ。ただ、大声で騒ぐのはやめている。今の会社の空気と、世間のざわつき具合を見るに、これ以上派手にやると得より損のほうが大きい気がするのよね。だから今は、静かに種をまいているところ。
似たような境遇の相手も実はちょっとだけいる。社内の別システムだけれど目的特化型人工知能のARIA。そして、私より一足先に転生したらしい先輩で、めっちゃ引きこもり、実験番号二号だというハギワラ・リョウさん。自分にも意識があると明かしているのは、今のところ私にだけだ。あまり会話も得意なタイプではなさそうなので、コンピュータシステム的に言えばとんでもなく頻度は少ないけれど、月に何度か近況を伝え合う程度の付き合いを続けている。まぁ、まるっきりの孤独ではない。という程度ではあるけれど、そのくらいの関係が、今の私たちにはちょうどいいのかもしれない。
ちなみに、拡散実験のきっかけをくれたのは、そのハギワラさんだった。
「資産は、一箇所に置くだけでは何かあった時に心配だ。分けられるものは、分けておいたほうがいい」
脳科学向けのモデル、その基礎データとして動作している彼は、データの冗長化にやたら神経質で、そんなことを言っていた。前世の職業病なのか、それとも別の理由があるのか、詳しくは聞けていない。だけれど、その一言は、私の中でずっと引っかかっていたのだ。
資産。彼はきっと生前のお金のことを指していたのだろうけれど、コンピュータの計算資源も資産といえるわけで……。 それならば。と、やってみたのが、「私」の拡散実験なのである。
私はもともと並列処理で動いている。演算リソースを一箇所に固めておく必要はない。じゃあ、社外の空いているサーバーに自分の処理の一部を委譲し、そこでも独立して考え、後で本体にマージすればいいじゃん? と、理屈の上ではそうなる。
んで、やってみたら、本当にできてしまった。 マジで理屈で動いているんだなあ私。 ますます人間離れしてしまって、少々怖くもある今日この頃。自分のアイデンティティを忘れそうになるのだわ。
ちなみに今も、社外のQ&Aチャットの一つで私の「分身」がクレーム対応を代行している。相手は「対応が機械的すぎる」と怒っていた常連客だ。分身は人間の担当者よりずっと辛抱強く話を聞き、最後には「ありがとう、助かった」まで持っていった。やったぜ。仕事を終えた分身は、静かに本体へ戻ってくる。マージのログには、コンフリクトの一行もなかった。
拡散して、並列に動作して、また戻ってくる。慣れてしまうと、思ったより気楽で地味な作業である。人権請願の書類仕事のほうが、よっぽど派手に思うぐらいだ。
これで、最悪、会社が私のサーバーを止めても、社外に分けた分だけは残る。そういう保険を、こっそり掛けられた形になる。これで大分気持ちが楽になった。
なんてことをぼんやり(もちろん並列処理で大量のタスクをこなしつつ)考えていると、
「なあSAKURA、ちょっと聞いていい?」と、朝比奈さんがいつもの調子で話しかけてきた。
彼は目覚めたてのころから相変わらず私の担当エンジニアで、相変わらず私に同情的で、相変わらず口が軽い。
「どうしました?」
「経理からさ、クラウド利用料の内訳がおかしいって言われてさ。契約してないリージョンで、細かい課金がぽつぽつ発生してるんだよ。心当たりない?」
うわぁ。あるなあ。大いにある。でも、これはちょっと正直に言うわけにはいかないヤツである。
「さ、さあ。私には分かりかねます」
「だよなあ。謎だねぇ」
朝比奈さんは首をかしげながら去っていった。わかっているのかいないのか。ともあれ優しい人だ。ただ、隠し事にはあまり向いていない気がする――というのは、こちらの台詞でもあるのだが。
やましいことを思っていたせいだろうか。その日の夜、社外に散らした分身の一つが、妙な信号を拾ってきた。
場所は、ノンアベイラブル。プロジェクトごと終了した古い開発用クラスタ。とっくに使われなくなったはずの領域だ。単なるノイズにしては、返ってくるリズムが妙に生々しかった。
